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一、災害はいつか誰かに降り注ぐ
  ついに結成式が開かれる。この結成式に際し、何度探検隊の話題が飲み会でなされ、それぞれが探検隊に想いをはせたことか。この物語は結成式の前夜の某地質調査会社地質課から始まる。
  2月10日に発生した古平トンネルの岩盤崩落事故は、余市〜古平が僕のお袋の実家に近いということ以外に、僕らに大きな影響を与えることとなった。一応うちの会社は業界でも大手の方の地質調査会社なので、建設省がらみの仕事もいくつか行っており、トンネルに関することもまた然りなのである。よって、2月10日からトンネル付近の岩盤崩落についての問い合わせもいくつかあり、F課長などはその対応でてんてこ舞いだった。地質課に籍を置く隊員の僕・うり坊・師匠は建設省がらみの仕事にはタッチしていなかったため、まるで他人事のように課長のあわてぶりを眺めていた。そんな中、建設省は全国のトンネルの緊急調査を発令、のほほんと見ていた僕らにも緊張が走ることとなる。
「岡本君、来週建設省の甲府工事のトンネル点検に行けるかなあ。」
  F課長の声がかかったのは探検隊結成式を翌日に控えた2月15日。甲府工事とはSさんという別の課の課長代理が懇意にしているらしく、そのつてでトンネルの点検がうちに回ってきたらしい。
「来週からだったら大丈夫ですけど、今週はまずいですから。」
  地質課は暇そうにしていると突発的に仕事を入れられるという慣習がある。これに何度となく泣かされたことのある僕としては、二度とそのてつを踏まないよう、ぬかりなく用意をしていた。結成式当日は朝から大月で道路公団との打合せの予定が入っている。実はこの打合せ、午前中には終わるだろうから、会社には午後三時くらいには帰ってこれるわけで、前もってこの予定を公言していれば、他の仕事で急に飛ばされることはまずない。16日の夜は確実に東京にいることができ、結成式への参加には何ら支障がないのである。はたから見れば取り越し苦労のように思われるだろうが、これが探検隊結成式の明暗を分けることになろうとは、段取ってた僕自身気づいていなかった。
「岡本君、甲府工事明日来いって言うんだけど、明日の大月はもう決まりだろ?」
「随分引き延ばしちゃってるから、明日行かないとまずいと思うんですよ。」
「そうだよね…。小山ちゃん」
  F課長は師匠を呼び、甲府工事が急に明日来いと言ってきたこと、17日までに点検の必要なトンネルを抽出して建設省本省へ報告しなければいけないこと、よって16日はかなりの時間の拘束が予想されること、来週まで話が延びれば岡本も投入する体制をとることを告げた。
「おかもっちゃん、明日甲府工事に捕まっちゃうよ。S先生のせいで。」
「小山さん、ということは明日の結成式はパスね。」
「あっ、それすっかり忘れてたよ。なに、俺は結成前からくやしい思いしちゃうわけ?」
「とほほ大賞にノミネートしてあげますよ。」
  師匠の疲れ切った笑顔を前に、うり坊が一言。
「くやしい探検隊って絶妙なネーミングですよね。」


二、EDAと合い鍵と洗濯機
  その夜は10時過ぎまで会社にいた。仕事自体は8時にやめていたのだが、明日の結成式にどうしても『くやしい探検隊暁の結集』を配りたかったので、2時間ほど会社のコンピューターで打ち込んでいた。このシリーズ第二弾は会長のお通夜ネタを中心に書く予定だったのだが、いざ書き始めてみるとお通夜ネタは全体の四分の一に過ぎず、メンバー紹介が主の出来映えとなってしまった。我ながらその計画性の無さにはあきれてしまったりする。
  しかし、こう書き続けていくと日常の至る所にとほほは蔓延しており、僕らはとほほに遭遇するたびに「またかよ」と吐き捨てたりする。でも、もしかしたら楽しいことも本当は日常に散りばめられており、僕らは目線や感受性の差だけでそれらに気づかず、毎日を退屈がっているのかもしれない。楽しいことの中にとほほが潜んでいるのと同様に、とほほの中にだって楽しいの素が隠れているのかもしれない。なんせこのシリーズの中で一番笑いを取っているのはとほほ話のところなんだから。『くやしい探検隊』は企画モノだけにこだわらず、日々の「楽しい」を追求する意味も込めて結成されたのだ。うそうそ。
「ってなことを一年の活動が終わって一年分の文章を一冊にまとめたときに、帯のところに書きたいわけよ、僕は。」
「ねえ、なんかそれって難しい文章でない?」
「でもかっこいいじゃない。真理なんか追求してるっぽくってさ。」
「長過ぎるよ。だいたい帯のスペースって小さいんだし、一目で中身がわかるような文章でなきゃだめなんだよ。せいぜい四十字かな。」
 急に話が飛んでしまったが、この会話は結成式二日前、僕と師匠とSAYUKIで、しこたま飲んだ帰り道での、僕とSAYUKIの会話である。
「帯が四十字なんてことないよ。そんだけだったらなにも書けないじゃない。」
「短い文章で読み手をひきつけるのが帯の役割なのよ。」
  僕の言葉はどう数えたって80字はあり、SAYUKIの提示する条件はクリアできそうにない。窮地に立たされた僕は発想の転換を試みる。なんのことはない。このテの口論の場合、相手の理論を根底から覆してやればこっちの勝ちなのである。僕は鞄の中からSAYUKIから借りっぱなしのままの新人看護婦奮闘記を取り出し、旭屋書店のカヴァーをはずした。
「いいか、読むぞ。」
「読んでみそ、読んでみそ。」
 両者の意地を賭けた『ナースがまま』の帯の文字は…。
「がんばれ!新人ナース。」
  それまで二人とも同じ千鳥足だったはずなのに、SAYUKIのそれは勇者の行進の如く力強くなり、僕の足取りはパントマイムのエスカレーターの如く小さくなっていくのであった。

  話は結成式前夜に再び戻る。10時を過ぎて脳みそウニ化現象が始まったにも関わらず、『くやしい探検隊暁の結集』は完成にまで至らなかった。翌朝はかねてから仕組んでおいた大月打合せのため、首都高の混雑を考えると朝7時前には家を出発したいところである。そこで明日の夕刻の創作意欲に期待して帰宅することとする。
 我が家到着が10時50分。外から見ると部屋に灯がともっている。アパートの階段を上り、玄関の前に置いてある全自動洗濯機のふたを開けてみる。とそこには今朝貼っておいたはずの我が家の合い鍵がなくなっている。こんな書き方をするとなんか艶っぽい話のように受けとめられてしまうかもしれないが、部屋の中に待ち受けるは木っ端役人・EDAである。「えっ、岡本さんとEDAって…」とたわけたことをぬかされては困るのではっきりさせておくが、僕にはYasさんという…。いかん、いかん。このネタはしばらく封印するはずだったのだが、ついつい筆が…。いやいや、このネタはもう少し我慢なのである。
 何故洗濯機のふたに合い鍵なのか。会長のお通夜の日、EDAの上京を知らされた僕は早速部屋の合い鍵をEDAの家に送ることとした。会社の茶封筒に簡単な手紙と合い鍵を入れる。ただ合い鍵だけ届いても使い勝手が悪いだろうと、鴨川シーワールドで購入したお気に入りのマンボウのキーホルダーもつけてあげる。うーん、なんという優しい心遣い。ところが結果としてはこれが仇となってしまうのである。EDA宅に到着した封筒には手紙一枚しか入っておらず、封筒の底には穴があいていたという。なんてこったい。鍵はこの際あきらめるとしても、お気に入りのマンボウのキーホルダーだけはなんとか戻ってこないものか。
「岡本さんとこのアパート、玄関の前に洗濯機がありましたよね。その中に合い鍵ほおり込んでおいてもらえませんか?」
  さすが難関の公務員試験を突破して、木っ端ながらも役人になっただけはある。着目点は非常に良い。しかし、ここに問題が一つ残る。それは僕の洗濯機は僕が留守の間、何者かに頻繁に使われるということである。EDAの言葉にあるとおり、僕の住む第二やまぶん荘の洗濯機置き場は玄関の前、共用の通路のところにあり、蛇口やコンセントも外についている。よって、誰にでも使うことは可能である。しかも隣近所は二漕式だというのに、僕のだけは全自動ときたもんだ。「ご自由にお使い下さい」と言っているようなものである。それに加え僕が留守がちときたら、さあ条件は全てそろった。案の定週に一度は明らかに使われた形跡が残っているのである。たまにかわいいパンティの一枚でも置き忘れていってくれるって言うならまだ許しがいがあるのだが…。もし僕が合い鍵を洗濯機に入れた日に限って、この不届きものが洗濯をしに来たらどうしよう。部屋に侵入され、あちこち物色されてしまう。金銭はないし、高価貴金属や宝石の類もないけれど、泉谷しげるの直筆サインやこれまでに描いた絵の入ったバインダー、思い入れたっぷりの曲を集めたカセットテープや僕の青春を彩った愛着のある数々の品が盗まれでもしたらどうしよう。
「なあEDA、おまえ会社に寄って行けばいいじゃない。俺忙しいからおまえが来る前に帰るなんてこと絶対ないと思うよ。」
「会社に行くのだけは絶対にイヤです。大体結成式の場所が会社の近くだっていうことでさえ、俺は納得してないんですから。」
「おまえが辞めるまで会社につらい目にあわされていたのはよーく知ってる。会社にイヤな奴がいて顔を合わせたくないのも察しがつく。でも俺はお前に悪いこと何一つしてないんだしさあ。」
「その言葉、胸を張って言いきれるんですか?良心に呵責はないんですね!」
「…。」
「やっぱり鍵は洗濯機の中に入れておいて下さい。」
  玄関を開け中に入ると、EDAの久しぶりながら見慣れた顔がある。
「EDA来てたんだ。良かった。」
  健全な読者のみなさん、勘ぐるのはやめましょう。僕にはYasという…。違うって。


三、過去
  師匠の心のすきま風は結成式開始前までに日本全国で吹き荒れ、東京は雪模様の寒い夜となった。僕はYasとともに木場駅へと歩を進めていたが、身体にあたる雪のひとつひとつが、
「この恨み晴らさずにおくものか」
という師匠の声のように思えて、痛みまで伴ってくるような気がしていた。うそうそ。
  結成式会場の「もりや」は会社のはす向かえに位置するにも関わらず、何故に僕らは木場駅に向かっていたか。それは夕方かかってきた一本の電話のせいである。
「岡本さん、俺今戸塚にいるんですよ。これから本社に寄らなきゃならないんで、そっちには遅れて行くことになるんですよ。」
  受話器の向こうでENOはいかにもすまなそうに話す。
「いいよ、いいよ。先にどんちゃん盛り上がってへべれけになってからENOが来たって、割り勘にするだけだから。」
「それはいいんですけど、まずいことが一つだけあるんですよ。頼まれてもらえないですか?」
「家庭不和だの離婚って話なら聞いてやってもいいよ。」
「実は今日の結成式にうちの奥さんも連れていこうと思って待合せしてるんですけど、俺どうしても間に合いそうにないんで、かわりに行ってもらえませんか?6時から6時半の間に木場駅なんですよ。あっ、電車が来たんでお願いしますね。」
  有無を言わせぬ「ガチャン」である。それにしてもアバウトな待合せしてやがる。もし僕が6時に木場に行ったとしてENOの女房が6時半に現れたら、僕は30分も待たされることになるのだ。でもそれは彼女にしてみれば約束通りになるわけだから、僕は待ちぼうけの30分について誰にもあたることもできず、胸にしまい込まなければならないのである。なんと不条理な。それより何より、僕はENOの女房とは結婚式の時一度しか会ったことがなく、顔をきちんと覚えていないのである。
「ENOさんなんて言ってるんですか?」
  先ほどまで机に突っ伏して寝ていたYasが、寝ぼけ眼で聞いてくる。
「お前まだ勤務時間中なのによく寝れるな。」
  Yasは前にも書いたが出向の身なので、滅多に会社には顔を出さない。軽い用事なら隣の課にいる女房・kon2を通じて済ましてしまう。F課長はYasが出向に行く際、月に一度は会社に顔を出すという約束を取り交わしたらしいが、その約束がほとんど果たされていないのに不満を感じており、すぐ僕に愚痴る。いやいや、もうちょっと正確に書くと、Yasは会社に来るには来るのだが、F課長が不在の時が多く、目的も僕と飲みに行くためだったりするので、
「私は何も岡本と飲むために月に一回会社に来るように約束したんじゃなくて、私と話をするために来るように言ったんだよ。なのにYasは私のいない時ばかり来るし、会長のお通夜の時だってYasは私に一言もなしに岡本と飲みに行ったんだろ?何か間違っている。」
と愚痴るのである。愛弟子Yasを想って出る言葉なのだろうから、それはそれでわかる気もするのだが、Yasはこの日も電話でF課長の不在を確認して(?)、4時頃会社に来たのである。
「そんなつもりで電話したんじゃないですよ。」
なるYasのつっこみが今頃Yasの心の中で入っているに違いない。
「寝てるって言うけど、岡本さんだって電話したときから今日の仕事はもう流しに入っているからって言ってたじゃないですか。」
「大きな声で言うな。おかげで今日の地質課はもはやみんな流しに入っているんだから。」
「それよりENOさんはなんて言ってるの?」
「そうそう、女房を木場まで迎えに行けって言うんだよなあ。でも俺顔覚えてなくってさ。Yas顔覚えてる?」
「二回しか会ったことないですよ。あんまり覚えてないなあ。」
「俺より多く会っているじゃない。おまえ迎えに行ってこいよ。」
「二回ったって、一度は結婚式でもう一回は5年も前のことなんですよ。」
  全く困ったものである。これはもう空港の外国人出迎えのような「WELCOME! MRS.ENO!」の紙を持つか、葬式会場の案内みたいな「くやしい探検隊⇒」(ワープロの外字に指の絵が入ってなかった)の紙を持つしかないようだ。
「結婚式の時だって披露宴の時と二次会じゃ顔が違ってたし、ましてや5年も前の話となると、何がなんだかね。」
  そういえばENOの結婚式の二次回は僕が司会をやってたんだけど、終始いらついてた感じで、それは決してENOを奪われたジェラシーなんかじゃなく、なんせそんな大役初めてだったもんでどうしていいかわからなく、緊張とあせりが大波小波で押し寄せてきて、関係各位に迷惑と不快感をもたらしたことだけはしかと覚えてたりして、簡単にまとめるとあまり思い出したくない過去なのである。だからそのときの写真なんかも机の中に放り込んだままになってたりして、
「Yas、そういや俺写真持ってるわ。」
などとつながるのは禍転じて福となったということでしょうか。
  6時15分に木場駅に到着したが、木場駅のどこというのを聞いていなかったため、僕とYasは木場駅入り口付近で一人たたずむ女性を捜してみる。
「Yas、あそこで立ってる女の子違うかなあ。なんかちょっと寂しげで憂いがあって…。」
「背がちょっと高すぎますよ。もうちょっと低い人でしたよ、彼女は。」
 写真の中の顔と見比べながら、Yasは冷静に返してくる。
「でも背が伸びたかもしんないよ。育ち盛りだもん。それにいい感じなんだよね。もうちょっと近く行ってちゃんと見ようよ。」
「岡本さん、目的が違うんですから、近くへ行きたきゃ一人で行けばいいじゃないですか。」
  さりとてこの僕、ひとりでナンパする勇気をこのときは持ち合わせていなかったため、ここは引き下がることとする。僕らのやりとりを駅前でたこ焼きの屋台を出しているおじさんは、
「ばかやろう!こちとらただでさえ雪降って寒くて売上げ落ちてるときだっつーに、てめえらでかい図体して営業妨害だってんでぃ。とっととうせやがれ、すっとこどっこい。」といった感じで見ていたに違いない。
 たこ焼き屋のおじさんの営利を配慮したわけではないのだが、僕らは地下改札口へと移動した。階段を下りるときはエスカレーターに乗って上っていく女性の顔に細心の注意を払う。なんだか気分は指名手配犯を追う刑事のようである。改札前にもそれらしき女性は見あたらず、僕らはしばらく改札前で網を張ることとする。電車が到着するたびに数多くの人が自動改札から吐き出される。その一人一人を持っている写真と照合する。別に一人一人見なくたって、若い女性だけ注意してれば良いのではないかと思われるでしょう。もしかしたらYasはそうしていたかもしれない。しかし、このときの僕は指名手配犯を追う刑事なのである。相手は秋に結婚し、幸せいっぱいの新妻。ところがそんな彼女に一本の電話。「話をしたい」という電話口の男に初めは拒んでみたものの、陰のある含み笑いにふた駅先の喫茶店で会うことに。男が取り出したのは一本のアイスキャンディのスティック。スティックには彫刻刀で刻み込まれた、少したどたどしい「あたり」の文字。そう、それは彼女が高二のひどく暑かった夏、部活が終わって無性にアイスキャンディが食べたくなった彼女。しかし持ち合わせがない。そこで偽造したあのスティックが、どうして目の前にいる男の手に。「ご主人には内緒にしますから」の言葉が頭の中を駆けめぐる。駅のホームで手渡された、口座番号を記したメモ。たった一本のガリガリ君ソーダ味が幸せな家庭を崩壊していく。「仲良くしましょうよ」といって背を向けた男。ホームに近づいてくる電車の音。彼女は渾身の力を込めて、男の背中をドンッ。周囲のざわめきをよそに改札を抜けると、目に入った交番。行き場を失った彼女の脳裏には最愛の夫の顔。そんな追いつめられた彼女が変装する可能性は十二分にあるのである。
  また一本電車が到着し、多くの人が吐き出され改札がいっとき静寂に包まれたとき、有人改札の向こうに女性が一人。それはどう見ても写真と同一人物である。
「Yas、あれっ。」
「似てますね。有人改札で定期を見せて、財布から小銭入れを取り出す。乗り越しの精算をしているんですね。駅員に金額を聞いてから小銭をさがすあたり、どうやらこの駅をあまり利用していないということでしょう。決まりですね、岡本さん。」
  改札を抜ける彼女に僕らはそっと近づく。
「ENOさんですね。岡本です。」
この文章は後半著者の意志に反してペンが脚色を加え、事実とは大きく異なるフィクションへ展開してしまったこと、ここでお詫び申し上げます。


四、本題は手短に
 よーやく結成式の話にたどり着いたみたいだ。前回も本題のお通夜に入るまでに三節を費やしてしまったが、今回もそれを踏襲しているみたいである。
「本題に入るまでが長いところなんか岡本さんの電話と同じですね。事務所に電話するときなんか女の子と20分喋って、仕事の話は2分ですもん。」
  こんなYasのつっこみが幻聴の如く耳に入る。すかさず僕のボケ。
「楽しい人や好きな人だと確かに長いけど、嫌な奴だと話はすぐ終わるよ。まあ、文章の方も雑文だと長いけど調査報告書は薄いから同じかな。」
  僕の調査報告書についてSG前技術統括課長は
「調査方法(前段)までは非常に簡潔でいいんだけど、結果と考察(本題)まで簡潔なんだよな。」
と言い、K技術部長は
「岡本の報告書は行間を読ませるという高度な技術を駆使した報告書だよ。」
と言ってくれる。これらが褒め言葉であることを僕は信じて疑わない。
 また横道にそれてしまった。どうもこうふらふらしてしまうのは性格なのだろうか。横路といえば前北海道知事の…いやいや、いい加減本題に入らねば。
  『美味処もりや』の座敷は探検隊ご一行様貸し切り状態となっており、隊員達は僕、Yas、ENO夫人の到着を待たずに勝手に盛り上がっていた。ENOにしてやろうと思っていたことが既に目の前で展開されているのである。
「あなた達が遅いからいけないんだよ。時間厳守!」
と、SAYUKIが一番奥で強気になっている。先日飲み会に5分遅刻し、僕と師匠に
「時間ぐらい守れよな。待たされる身を少しは考えて行動しろってんだよ、まったく。」
と、執拗に野次られたのを根に持っているのかもしれない。
「まあまあ、じゃっ4回目の乾杯ーっ!」
「まてー、お前ら俺達が来る前に3回も乾杯してたんかよ。」
「遅れる奴が悪い。」
  このような紆余曲折、LONG AND WINDING ROAD=日本風に言うと「立ち止まるCROSS ROAD,さまようWINDING ROAD」といった長い道のりを経て、『くやしい探検隊』がここに正式に旗揚げされたのだった。
  このあとの展開はどうしようか…メンバーは結成式の話の中でごく自然に紹介していけばいいかなどと考えてはみたものの、そんなことしていたら今回のストーリーに終焉がなくなってしまいそうで、探検隊はまさに「さまようWINDING ROAD」状態に陥ってしまうため、ここで軽く結成式参加者の紹介を。などと言っているが、実は酔っぱらっていたため結成式の話を事細かに思い出すことができなかっただけっだったりして。
SAYUKI。探検隊発起人の一人で、僕らの姉御的存在。くやしい探検隊のサザエさんもしくはサマンサといった役どころ。今後マスオさんもしくはダーリンも参加予定。ちなみにタラちゃんもしくはタバサはいない。
・ママ。某地質調査会社総経課所属。探検隊でただ一人の精神的オトナであるにも関わらず、僕とうり坊のためにため込んだ(各々二十五万相当)精算書を前に、出社拒否を起こす。結成式当日は会社復帰一日目であった。ママを誰にたとえようか…これは非常に難しいので、読者のみなさんの宿題とします。
・EDA。木っ端役人。宮崎県民の血税で講習会に参加するために上京したというのに、途中で抜け出し新宿で買い物していたという極悪人。告発される日も近いのでは。ちょっと昔を思い出して、冬彦さん。
・岡本直人。「僕」であり、一連の駄文の書き手である。改めて記すこともないが、ニヒルでクールでストイックなところはコンドルのジョーと相通ずるものがある。
・うり坊。一番ぺーぺーのため、飲み会では雑用一般をやらされているが、実に協力的で「変わったもんだ」と感慨深くなってしまう。たとえるならばサル…それは見たまんまか。容姿は違うが、「ドカベン」の殿馬的要素を多分に持っている。
・ENO。『暁の結集』で書きすぎたので怒っているかもしれないが、結成式ではホモ疑惑が発覚する。ENOに限らず探検隊員には何故かしらこのテの疑惑があるが、その詳細はいずれ別のところで。ENOのキャラクターは「俺達は天使だ」のナビ(渡辺篤史がやってたやつ)に似ている。
・Yas。結婚後は幸せ太りで、その昔マンセイイエンの馬名で不健康を売りに鳴らしていた頃の面影が薄れてきている。一応優等生タイプに見えるところがYasのずるいところで、「宇宙戦艦ヤマト」の島大作みたいである。
・じつよ。話題のENO夫人であるが、アイスキャンディのスティックの偽造はおそらくやっていないであろう。お父さんが34歳のときの子供なので「ミヨ」と名付けられたそうだ。僕はENO夫妻の結婚式の二次回の案内を作成しているとき、「ミヨ」と打っても「実代」と変換してもらえなかったため、「じつよ」で打ち込んでた。ゆえに通称はじつよちゃんなのである。初めて一緒に飲むって事や前節のお詫びも込めて、コメットさんといったとこでしょう。
kon2。Yasの女房であるが、僕との付き合いはYasよりも古い。時折話題に上る彼女の兄を含めて、ノンノンとスノークとSAYUKIは言っております。となるとYasはムーミンで僕がスナフキンか…。お兄さん、参加お待ちしております。

「隊長決めようぜ、隊長。やりたいひと!」
  一同しーん。
「誰かやれよ、黙ってないで。」
「さすがに隊長となるとね。」
「小山さんでいいんじゃない。」
「年長組だし、みんなの信頼も得てるし。」
「いいね。決まりだね。全会一致だね。」
「結成式欠席だけでもくやしいのに、欠席裁判でなおくやしい。」
「これはとほほ大賞の最有力候補だね。」
  後々に遺恨を残さないためにも、会話は全て匿名にしておく。こんないい加減な奴らにいい加減に隊長職を任命されてしまった師匠は、「いなかっぺ大将」のニャンコ先生のような人である。


五、どこまでも限りなく降り積もる雪ととほほへの想い
 結成式はその盛り上がりとは裏腹に、隊の方針や各自の役割といったことの殆どが決まらぬまま、とどのつまりは酔っぱらい状態に陥ってしまった。決まったことといえば隊長が小山師匠になったこと、うり坊が奴隷兼焼き物一般を担当し、SAYUKIが焚き火兼酒のつまみ係と言うこと、僕が『くやしい探検隊シリーズ』執筆兼ダンサーになること…。何故ダンサーなのかとか、一体何の踊りができるのかは僕自身知ったこっちゃないんだけど、とりあえずその場が盛り上がったから良しとする。そうそう、じつよが衣装を担当するって言ってたけど、衣装・じつよだと格好良くってみんながひがんでしまうので、針子ということにしておこう。
 
探検隊のことそっちのけで、僕らは一体どんな話題で盛り上がったというのか。それはENOの行状である。亭主の遅刻により、殆ど見ず知らずの人の中に放り込まれたじつよにもついてこれる話題と言ったら、それはもう亭主・ENOの話しかないでしょう。その全てをここに書いてしまおうかとも考えたのだが、第二弾に引き続きENOのすねた顔が目に浮かぶし、かといって平等になるように男子隊員間に流れる妖しい疑惑についてまで書いてしまうと、ただでさえ長いこの第三弾が『超ド級長編書き下ろしスペクタクル巨編』になってしまいそうなので、ここでは控えておこう。でも、このときの話の衝撃度はばらされたENOにとってはとてつもなく大きかったらしい。ENOはその後、一次会のおあいそを勝手に頼んで場所を変えようとし、カラオケボックスではマイクを握りしめたまま放さなかったり。歌うのやめたと思ったらプロレス大会が勃発するわで、じつよに

「うすうすは感じてたけど、ここまでやってたとは…」
と絶句させるほどすごかったのである。この後もENO旋風は衰えることなく、最後は終電を逃し、夫婦そろって我が家に泊まることとなる。
  師匠の心のすきま風を源とする雪は翌日になっても降り続け、各所で交通パニックを引き起こしていた。欠席裁判で初代隊長を押しつけられたのがよっぽどいやだったんだろう。しかしこの恨み雪、見事僕らに天罰を与えたのであった。
  日曜日の午前中、EDAはせわしなくテレビの交通情報に耳を傾けていた。本当なら羽田まで僕の愛車・Rちゃんで送ろうと思っていたのだが、あいにくの雪なので、
「まっ、電車で勝手に帰ってちょうだい。飛行機飛ばなかったら泊めたげるから。」
などと話をしていた。
「でもわざわざ羽田まで行って欠航ですじゃ時間もったいないから、電話かけて聞いてみれば?」
「そーですね。電話番号はこのチケット入れに書いてるところでいいんですよね。」
「おう、それそれ。電話してみて駄目だったら遊ぼうか。」
  EDA、カバンよりチケット入れを取り出し、書いてあるインフォメーションに電話をしてみる。
「あの、宮崎行きの便なんですけど…。エッ、はい。はあ、はあ。あっ、そうなんですか。はい、わかりました。どうもすみません。(ガチャン)岡本さん、宮崎行きは関係ないんですって。そうとなれば電車止まられたらイヤなんで、俺帰りますわ。ちょっと早いけど。」
  EDAはなんだかんだ言って早く帰りたい様子であった。一体宮崎で何…いやいや誰が待っているというのだろうか。EDAはいつもダマだから。
  EDAがそそくさと帰った後で、僕は録画しておいた「古畑任三郎」を注意深く再生していた。クイズ王の仕組んだ密室のトリックを当てるために。と、そこに電話のベル。
「あっ、EDAです。今秋葉原なんですけど、飛行機のチケット忘れちゃって。そこら辺にあるでしょ。申し訳ないんですが持ってきて下さい、秋葉原まで。」
  空は「せいせいした」とでも言いたげに晴れ間を取り戻しつつあった。
 師匠、少しは気が晴れたでしょうか。

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くやしい探検隊

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