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まったりとした夜?



顔グロと白乳首

 とにもかくにも凄まじい出来事だった。しかし、荷物を回収している時も、つぶれたテントを丸める時も、なぜだかみんな笑ってる。いや、笑うしかないといったほうが賢明か。とにかく人は自然の脅威を目の当たりにすると、命に別状のない限りはその力強さに微笑ましくなってしまうのだろうか。
「局地的に竜巻が起こったんじゃないかな。一瞬だったもんね」
 小山隊長が冷静に振り返る。さすが隊長。でいながらも、
「寝袋と着替えをテントに入れてたから、全部びちょ濡れだよ」
 冷静さとお間抜けを併せ持つ男・小山隊長。さすがに奥が深い。
 再び雨足が強くなってきたので、みんなで屋根つきの炊事場へ避難する。
「ねぇねぇ、Kibunの顔、黒くない?」
「そういえば心なしか髪の毛もちぢれてるし・・・」
「Kibun、雷に当たった?」
 事態が飲み込めず、しきりに顔を気にするKibunは、あわてて車のサイドミラーを見ると・・・
「あ〜っ!写さないでよ〜っ!」
 原因は濃紺の日本手拭いが色落ちしたことらしい。それにしても、ナイス天然。くや探の雷さまはKibunで決まりだっ!めざせ、高木ブー!

ほんとだ、Kibunの顔黒い

「写さないでよ〜っ」
 そしてもう一人。Kibunの顔グロに対抗すべく天然を発揮する男が・・・。その名も11郎、人呼んで「白乳首の男」。
「おまえ、なんで乳首だけ白いのよ」
「いやぁ、江戸川でジョギングする時、シャツが乳首にこすれて痛いからバンソウコウ貼ってたんですよ。そのうち暑くなってきて、周り見たら結構上半身裸の人がいたから、ぼくもシャツを脱いで走ってたんですけど、バンソウコウ外すの忘れちゃったんですよ」
 確かに出来上がりは笑えるほど恥ずかしい。でも、上半身裸なのに乳首にだけバンソウコウ貼って走っている姿も、結構恥ずかしいよなぁ。

遠めからはわかりづらいが・・・

近くによるとはっきり白乳首
 とにもかくにも、くや探一同ただただお手上げのハプニングだった。それにしてもKibunの顔、クロいっ!



後始末

 雨が落ち着いたところで再び片付け開始。それにしても全てがびしょ濡れで始末に終えない。みんな結構滅入っているとは思うんだけど、なぜかにこやか。それもこれも滅多に体験できることのない自然を味わえたからだろう。若干一名、ただただ楽しんでいるデブもいるんだけど・・・。

見るからにびちょ濡れ

一人遊んでる白ムチ
 ここで、被害状況をチェック。夕食用に研いでおいたお米や、ふかしていたイモは全滅。ほかにも結構食べ物が飛んでいったみたい。金目の物では・・・、まずは隊長から。
「テントはフライが破れたなぁ。あと、チタンのコッフェル。やっぱりチタンは軽いから、簡単に飛んでっちゃうのかなぁ」
 SAYUKI&Kibunのところも、
「テントに松の枝が突き刺さってたよ」
 避難しないで外に出ていたら、人に枝が刺さってたかもしれないのかなぁ。そう思うと背筋に寒気を感じる。
 傾向としては大きなテントがやられたみたい。小山隊長のもSAYUKI&Kibunのも、5人用だったから。より多くの風を受けたり枝の的として大きいし。
 ぼくにも被害があった。
「魔法鍋の外側が行方不明。これでただの鍋になったよ」
 そして一番くやしがっていたのがSAYUKI。
「せっかく答えてもらったアンケート、なくなっちゃったよ!」
「よかった。これで妙な団体にデータが流れないですんだ」
「え〜っ!そんなんじゃなかったのに〜っ!」
 キャンプが終わってしばらくたつが、未だあのアンケートの趣旨・出典は謎のままである。


プロジェクトX(田口トモロヲ風に)
     風の中のす〜ばる〜♪

 物凄い経験と引き換えに、くや探メンバーは寝床を失っていた。テントは潅水、車内には湿気が充満している。このままではつらい夜を迎えることになる。この難局に立ち上がった男がいた。今回のキャンプの幹事を務める岡本直人だった。
「顔は笑っているが、この雨風で隊員たちはかなりの体力を失っている。楽しく、まったりとするはずのキャンプを悪い想い出にはしたくない」
 みんなが雨や風を心配することなく、今日の疲れを癒せる場所・・・。最低限屋根があり、壁に囲まれた場所が望ましい。
 キャンプ場にはバンガローも設置されていた。いざとなったらそれを借りるのもひとつの手段だ。でも、安易にバンガローに頼ることを、自然の脅威を目の当たりにした隊員たちが納得するだろうか?疲れきってはいるものの、自然に対する好奇心がより一層旺盛になっている隊員たちが。
 ふと見上げた視線の先に、ある一軒の平屋建てが目に入った。

 思わず走り出していた。隊員の中から初代奴隷のうり坊を呼び寄せると、二人で平屋建ての中を窺った。そこにはコンクリート張りの30畳ほどのスペースが広がっていた。バーベキューハウスとして使われていたのだろうか、四隅に焼肉用のテーブルが並べられていた。現在は使っていないらしい。
「これだっ!」
 つぶやくやいなや、うり坊を連れて管理人のもとへ走った。
 管理人のおじさんはテニスコートにいた。さっきの竜巻でテニスコートのベンチや審判用のイスが無残にも散らばっていた。岡本とうり坊はベンチを直す管理人のおじさんを手伝った。一段落着いたところで岡本が切り出した。
「おじさん、この雨風で持ってきたテントが使えそうにありません。あの平屋建てで一夜を明かすことはできないでしょうか?」
 指先には先ほど中を窺った平屋建てがあった。おじさんが静かに言った。
「こんな雨風はこれまでに経験したことがありません。せっかく来て頂いた皆さんには楽しい想い出を持ち帰っていただきたいと思っています。今日はお客さんもほとんどなく、岡本さんの他の一組はバンガローに入るとおっしゃっていました。今は使っていない平屋建てですが、今日は開放しますので、ぜひご自由にお使いください。食事も平屋建ての手前にある囲炉裏をお使いください」
 岡本は肩の荷が下りたように大きく安堵の息を吐いた。傍らでうり坊がガッツポーズをとった。
 早速隊員たちに報告した。皆、一様に喜んだ。寝袋や着替えなどを平屋建てに運び込んだ。
 自然の素晴らしさと人の優しさに心を打たれた。

  ヘッドラ〜イト テールラ〜イト 愛は〜まだ とまらぁない〜 ♪
     (注:かなりのフィクションが盛り込まれています)


一転極楽

 今回のキャンプで一番ナイスだったのは、キャンプ場に温泉がついていたこと。まったりのためのオプションに過ぎなかったはずの温泉が、いまやぼくたちを支える重要なアイテムに進化していたのだ。前述の管理人のおじさんの心の暖かさとともに、冷え切った身体と萎えきった心を暖めてくれる。なんて素晴らしいやつなんだ、温泉。
 各自タオルと着替えを用意して温泉場へと乗り込む。着替え一式テントに入れて潅水してしまった小山隊長も、かばんの中をごそごそとあさり、下着類が濡れていないのを知るやいなや、歓喜の雄たけびをあげる始末。濡れた下着を着て寝るのはイヤだから、その気持ちはみんな良く分かる。
 このキャンプ場は温泉は別料金のため、一同入浴券売機の前でポケットから財布を取り出すが・・・、紙幣が濡れてる。財布の色が落ち、真っ黒な紙幣も。当然券売機が受け付けてくれるわけがない。申し訳なさげに管理人のおばさんに両替をお願いする。
 それにしても温泉はいいもんだ。身体が冷え切っていなくてもいいものなんだから、このときのぼくらにはどれだけ極楽に感じたことか。
 男湯にはなぜか北海道の観光PRポスターが貼られていた。不思議。女湯はどうだったのだろうか。残念ながら女湯には入れなかったのでレポートできず。


晩ご飯

 寝床が決まり、温泉で身体を温めると、すっかりお気楽モードに突入。腹も空いたので夕食作りに取り掛かる。今回のキャンプは誰もがまったりを志していたためか、夕食の構想を練っていたり、下ごしらえをしてきたものは誰もいなかった。買出しのときに「どうする?」と確認したところ、「カレーにしよう」の声が圧倒的だったため、材料を購入。当然のことながら、別にカレーが食べたかったというわけではなく、一番手ごろだからの選択に違いない。
 それにしても今回から参加の奴隷2人は良く働いてくれる。夕食のときも野菜切りにぼくやKeiとともに奮闘。二人ともM系のキャラだけに、奴隷が板についている。きっとこれだけ誉めれば脱退宣言はないだろう。
 となると初代奴隷も黙って座っていられず、腕を振るってサラダ作り。新入隊員の加入によりくや探は明らかに活性化しているようだ。飯炊きはいつものとおり小山隊長が、カレーの調理・味付けは几帳面なA型のYasが買って出る。焼き物はKibunがSAYUKIの指導を「いいんだよぉ」と無視しながら。

奴隷2名、野菜を切る

調理場の風景

うり坊も負けじとサラダ作り

飯炊きはもちろん小山隊長

ちょっとグロい焼き物各種

焼くのは当然Kibun
 出来上がったカレーは絶品の一言。何気ない鰤のアラ塩焼きも美味で、みんな満足。一人や二人でキャンプをすると食生活が異常に質素になってしまうけど、大勢のキャンプは夕食が充実していていいねェ。
 団欒の雰囲気を盛り上げたのが11郎が持参したおしゃれなキャンドル。
「おまえ、これわざわざ買ったの?」
「いや、クリスマスに買ったやつの余りです」
「えっ?だってクリスマスは一人じゃなかったっけ?」
「だからちょっと火をつけてわびしかったので消しました」
 うぅっ。かなり悲しいぞ。
「おかもっちゃんの横、暗いからキャンドル1本置こうよ」
 そう言ってKibunがキャンドルを1本渡してくれたんだけど、手を差し出したとき急にキャンドルを傾けてきた。
「あちっ!あちちっ!」
 黄色いキャンドルから蝋が滴り落ち、ぼくの手で黄色く固まった。
「ごめん、ごめん」
「気をつけてくださいよ。蝋をかけられるのは久しぶりだから、異常に熱く感じたじゃないですか」
「えっ?おかもっちゃん、過去に蝋かけられたことあるの?」
「えっ?それは趣味で?」
「えっ?そういう趣味があるの?」
 矢継ぎ早に繰り出される突込みに、そんな気はからきしないのに「おれってマゾ?」と自問してしまいそうになるぼくなのでした。


就寝

 ひとしきり話をし、食事の後片付けをしたとたんにみんな睡魔に襲われる。あれだけいろんなことがあったんだもん、無理もないか。今夜の寝床の平屋建てはかなり広かったので、みんな思い思いの場所にエントリーして眠りについたのだ。



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