バンガローの外は 朝が早かったせいか、渋滞がひどかったせいか、久々に飲み続けたせいか。いつもなら寝袋に入り、消灯してから小山隊長と話し続けるパターンなのに、あっけなく眠りについていたようだ。でも、時折バンガロートタン屋根をたたく激しい雨音と、薄壁越しに聞こえる強い風音で目が覚める。タープやテーブル、イスを片付けづに眠りについたので、大丈夫かと少しは気にするが、起きて濡れながら片付けに行く気にもならず、目を閉じる。ある程度のダメージは覚悟しよう。 小山隊長が立ち上がる音がする。バンガローの引き戸が開く音がする。小山隊長が出て行ったあと、時計を確認、5:00。まだ早いと再び目を閉じる。まもなく小山隊長も戻り、再び床につく。トイレだったらしい。 しばらくして、バンガローの外から声が聞こえる。窓からは朝陽が射し込み、少し眩しいくらい。隣に寝ていた小山隊長の姿はなく、声の主が小山隊長だと気がつく。誰かと話している。どうやらSAYUKI&Kibunのようだ。会話の中に『おかもっちゃん』とあったような気がする。なにを話しているというのか・・・。悪口を言われる前に起きなくては。朦朧とした頭を強引に持ちあげる。 7:00、起床。雨はやみ、雲の切れ間に太陽が覘く。キャンプ2日目の始まりだ。 疑惑発覚? 夜中にあんなに強い雨風があったというのに、タープもテーブルもほとんど被害がなく現状維持されていた。よっぽど設置が上手かったに違いない。自画自賛。 しかし、中には大きな被害を受けているものも。それはイス。イスの座面に雨が溜まり、見るも無残な・・・。特に小山隊長のイス。水の溜まり方が尋常じゃない。これは本当に雨だけによるものなのか・・・。 尋常じゃないといえば昨夜の小山隊長のトイレペース。誰と飲んでも一番先にトイレへ行く小山隊長がだ。昨夜に限って膀胱が大きくなっていたなんてどうしても考えられない。まさか・・・。 「小山隊長、昨日なかなかトイレに行かなかったのは、こっそり漏らしていたからじゃないの?」 「なにを根拠にそんな言いがかりつけるのかなぁ」 「だって、隊長のイスに溜まってるんだもん・・・」 「・・・ち〜がうって。これは雨でしょ」 「ホントかなぁ・・・」 「ホントだって」 さて、真相は何処に。 やっぱり雨、すごかったんだ 雨は上がり太陽は見え隠れするものの、ここ数日の連続降雨と昨夜の雨の影響は大きかったようだ。ぼくらのいるサイトは湖畔周遊道路を挟んで陸側に位置するので、地面がぐちゃぐちゃ程度ですんでいるのだが、周遊道路の内側、まさに湖畔のサイトでは湖の水位が上がっているため、水没状態。自然の猛威ってヤツですかな。
いざ、出艇? 天気がいいのでMyフネを車から降ろし、漕ぎ出そうかと考える。なにせ去年は一度も漕いでいないので、かなり欲求不満が溜まっているのだ。しかし、湖では既にバス釣り大会が始まっており、釣り船で湖は満杯状態。彼らは近くを横切ると冷たい目で睨んでくるんだよなぁ。管理人さんが言うには大会は午前中までとか。いささか腹も減っていることだし、無理に今から行くこともないか。ってことで、大会が終わってからのんびり漕ぐことにする。 いつものことなんだけど、うり坊が起きてこない。でも、腹が減るのは止められないということで、うり坊の寝るバンガローに保管していた食料を取り出しに行く。 「えっ?朝?」 一応目を覚ますものの、再び眠りにつくうり坊。気持ちはよくわかる。なぜかはわからないが、ふかふかの布団に寝ているわけでもないのに、キャンプ場では気持ちよく眠れるのだ。 昨夜残った白飯をお握りにして焼く。昨夜のカレーも温める。ちなみに海苔を巻いてあるヤツは昨日の朝食用にぼくがコンビニで買ったお握り。すっかり食べ忘れて車に入っていた。 「朝からカレーってヘヴィじゃない?」 SAYUKIにはわからないかもしれない。男ってヤツは朝からカレーが大好きなのだ。特に屋外では。 うり坊も起きてきて、みんなで朝食。しかし、だれも海苔つきお握りには手をつけない。いくら雨とはいえ夏にまる一日車に入っていたお握りなんだよなぁ。自己責任ということで、ぼくが責任を持って食しました。でも、焼いた海苔にカレーは合わなかったかな。 いざ、出発! 今回の雨で欲求不満を募らせていたのはぼくだけでない。いつもならみんなが寝静まっている頃に一人で釣りに出かけるKibunも、今回ばかりは出動せず。それでも釣りからは離れることができないようで、朝食後はせっせと仕掛け作り。 「ここの返しが・・・」 と、夢中の様子。いつの日かKibunの仕掛けで釣った魚を炭で焼いて食べようぞなもし。 今日から参加という11郎。当然今頃は出発しているのかなと、電話をかけてみる。 「11郎です。・・・起きてましたよ、もちろん。・・・いや、まだ家なんですけどね。洗濯してから行くつもりだから、午後ですよ。・・・洗濯しないと・・・はい・・・洗濯・・・はい・・・いや、終わったらすぐ・・・」 雨がほとんどあがり、曇天だった空に切れ切れながらも青が覗いてきた。各人それぞれにカレーお握りをまったりと消化していたところ、小山隊長が口火を切った。 「雨あがったし、曽原湖一周ハイキングしようよ。全長4キロくらいだから、タラタラ歩いて1時間だよ。どうせ今晩もしこたま飲むんだから、カロリー消費しとかないとさ」 思い思いの団欒風景に一瞬緊張が走る。注目は闘痔あがりのKibun。過去、登山やハイキングをことごとく拒否してきただけに、今回も・・・と思ったら、結構あっさり承諾したぞ。考えてみれば、一人夜な夜な釣りに出かける太公望。歩くのが嫌なわけではないのだ。 ということで、ノロノロと出発。小山隊長の調べによると、キャンプ場のある湖の東側はフラットな舗装道。北側から西側にかけて、ちょっとした起伏のあるサイクリングロードになるという。 歩き出すと、なんだか楽しい。あいも変わらずくだらないことを喋りながら、のたりのたりと進むんだけど、緑の中にいるのがとても心地良い。
そんな細かい突っ込みはさておいて。曽原湖は今回3度目なんだけど、これまでは平地からの目線、水面近くからの目線でしか湖を見ていなかった。でも、今回はハイキングのおかげで上方から湖を見ることができた。樹木の隙間から見下ろす湖はちょっぴり神秘的。そして森には原人の姿も・・・。うり坊、ほんと野生児だぞ。
「じゃっ、帰還を祝ってまずはビールで乾杯しよか」 って、意味ないじゃん。 伊東家の食卓? くや探キャンプの特徴は、飲む・食う・笑う。その合間に温泉やカヌー、ハイキングが散りばめられている。ということで、昼飯食うでしょ。今回の昼飯はキャンプの定番・焼きそばです。個人的には塩焼きそばの方があっさりしてて最近は好きなんだけど、キャンプの焼きそばは主食じゃなくて酒のつまみ。なんで、ちょっと濃い目のソース味がビールの消費をまた誘う。 「そうだ!UNOやろうよ。『伊東家の食卓UNO』っていうの買ってきたんだ。UNO以外にもいろんなゲームが楽しめるんだよ」 SAYUKIの提案で午後はカードゲームにいそしむことに。 「でも、UNOのルールを知らないんだよなぁ」 「じゃあ、大貧民やろうよ。スピード大貧民って遊び方もあって、決着が早くつくんだよ」 「別にスピーディでなくてもいいよ。時間はたっぷりあるんだからさっ」 ということで、『伊東家の食卓UNO』カードを使っての大貧民バトル勃発。トランプでやる大貧民よりもカード枚数が多く、ルールもちょっと違うため、最初はみんな戸惑ったものの、まもなくルールを理解して、白熱のバトルへ。この白熱さがとんでもない失態を引き起こすとは・・・。 ぼくらはゲームに夢中になり、気が付くと雨はすっかりあがり、ちょっと離れたサイトに若い男女4人組がテントを張り、11郎が到着したこともまるで気が付かなかったくらいにして。 「あっ、ぼくあがりです」 って、11郎。いつの間にゲームに参加してるんだよっ! かなり大げさな表現があったこと、お詫びします。 温泉でのんびり・・・ 大貧民に白熱するあまり、時間の経過すらわからなくなってしまった。それだけゲームに没頭していたんだけど、さすがに隊長。しっかりと状況を判断してかのように一言。 「そろそろ温泉行ってさっぱりしようよ」 しかし、ゲームに白熱しているぼくらには、大人の意見が通じない。 「隊長、負けてるからって逃げるんですか?」 まぁ、それが青春ってヤツだよね。 とかなんとか言いながら、隊長が下調べしてくれた桧原湖湖畔のふれあい温泉湖畔へ。駐車場に降り立つと、ちょっととっぽいお兄ちゃんとその連れの女性が落ち着かない様子で中を覗き込んでいる。 「なんだろなぁ。混んでいるのかなぁ」と思いながら料金を払い、脱衣場で服を脱いで風呂場に入ると、中にはもんもんを背負った方が3名ほど入浴中。6人も入ればいっぱいの風呂場なので、服を脱いだ順に隊長・Kibun・うり坊が風呂場に入ると、ぼくと11郎は裸で所在なげに立ち尽くすだけだった。これが結構バツ悪し。 そういえば最近もんもん背負った人見かけなくなったよね。温泉の多くがお断りしているし。社会人になるまで銭湯通いしていた頃は、いっぱいいたよなぁ。昼間の早い時間とかに特にいっぱい。でも、意外と優しかったよ、あの人たち。大学生の頃は意気投合したおじさん(年配の方で、地元の顔だったらしい)に風呂上りのビールご馳走になったもんなぁ。 今回の方々もとても礼儀正しく、風呂場から上がるときにはきちんと頭を下げ、 「どうもすいませんでした」 と挨拶をしてくれたほど。彼らは何一つ悪いことしていないんだけどね。 風呂場でもあい変らずバカ話を続け、のぼせる一歩手前で風呂から上がる。 夜及び翌日の食料と酒・氷の補充のため、裏磐梯のメインストリートに出ると、セブンイレブンの近くに豆腐屋が開店していた。その飾り付けからして、今週末の3連休に開店だったみたい。だというのに大雨の影響で、観光客もキャンパーもまばら。大変な船出だこと。 この豆腐屋さん、一見八百屋にしか見えない豆腐屋なのだ。店の前面には野菜が並び、店の奥に豆腐コーナーがあって、若主人が豆腐を売っているといった感じ。察するに・・・。 都会に憧れ、東京で豆腐屋に住み込んで修行していた若主人。そこに田舎で八百屋を営む母親からの一本の電話。 「とうさんの体調も思わしくないんだわ。あんた帰ってきてお店手伝ってくれないかね」 「でもかあさん、おれ豆腐屋になる夢あきらめたくないんだ」 「なんだったらうちの店で豆腐屋やればいいじゃないか」 「でも豆腐屋って朝早くから忙しいし・・・。八百屋の仕入れがおろそかになると思う・・・」 「そんくらいかあさんがなんとかする。だから帰ってきてくれないか?」 そんな事情があって開店した店に違いない。
「そういえば昨日買った卵、まだ1個も使ってないよね」 卵が20個。今晩から卵パーティか・・・。 夜の部突入 温泉&買出しから戻ったら、夜の部の準備に突入。なにせ食うことと飲むことが主体のキャンプなものですから。今晩のメニューは炊き込みご飯に肉汁。サイドメニューにSAYUKIの実家が提供してくれたゆでとうきびに醤油を塗って焼いたり、さつま揚げ・厚揚げも焼いたり、卵を消費すべくゆでてみたり。炊き込みご飯は小山隊長、肉汁はぼくが担当し、サイドメニューをSAYUKI、Kibun、うり坊、11郎が絶妙の連携で調理していく。 洗い物をしていたSAYUKIと11郎からこんな情報が・・・。 「むこうの男女4人組、夕食はレトルトのカレーみたいよ。せっかくキャンプに来てるんだし、雨もやんでいるんだから、なんかもったいないよね」 ぼくも一人のときはレトルトで済ますことが多いけど、グループで来たときは作るでしょ。一緒に作ることでさらに親密になったりするんだから。いっそのことこっちに引き込んでしまいたいくらい。とりあえず女の子だけでも。 「キャンプの楽しさ、教えてあげたいよね」 まあ、それぞれに楽しみ方があるってもんでしょうか。 今回はいい酒飲んでます。
とりあえず片づけをした後は、すっかりハマってしまった大富豪バトル再開。こういったゲームって結構性格出ちゃうじゃない。無謀にも突っ走るヤツとか大事なところで出し惜しみするヤツとか。ゲームしながら正確判断したりして、大盛り上がり。 「3のペアでござる」 「6のペアでござる」 「キングのペアでござる」 「いきなりそうくるでござるか・・・。う〜む、パスでござる」 「あがりでござる」 なぜだろう。大富豪をやっていると、みんな”ござる”言葉になっていく。 「ゆでたまごいっぱい余っているから、最後に大貧民だった人は罰ゲームとしてゆでたまごの一気食いしようか」 せっかく買って調理したものを捨てるのはキャンパーとしていただけない。ならば残さずに食べてしまおうという、とってもエコなぼくたちなのです。でも、夕食と酒でいっぱいに詰まったぼくらの腹に、ゆでたまごはきつい・・・。 「そうだね。でも罰ゲームは食べ物に失礼だから、優先的にゆでたまごを食べれる権利を与えよう」 罰ゲームが決まったこともあり、ゲームはさらにヒートアップ。みんなのボルテージも上がりっぱなしで「ござる・ござる」の大連呼。大爆笑の連続なのだ。 すると男女4人組の女の子が一人、こちらにやってきた。いよいよぼくらの仲間に入りたくなったのかな。一同優しい目で彼女を見つめると彼女が一言。 「夜なんで静かにしてもらえませんか」 時計を見るとまだ(もう?)九時過ぎ。まさか三十〜四十代のいい大人が二十歳そこそこの若者にお叱りを受けるなんて・・・。一同愕然。 「なんかむこう、キャンプの楽しさわかってないよね」 「夜はまだこれからだってーの」 「晩飯もレトルトだしさっ」 きっとこれらは負け惜しみの部類に入るのかな。いや、別に負けたわけじゃないんだよな。 おかげで声のボリュームは小さくなったものの、ゲームの興奮はまだまだ続く。
どろろろろろろろろろろろろろろろろろろ〜(ドラムロール) 小山隊長に決定っ! 小山隊長にはゆでたまごを一気に食べられる権利が与えられました。拒否はできません。 こうして楽しい夜は更けていくのでした。 |