その1 経験者は語る |
「で、去年下見した時は山頂に着く前にご来光を見たんですよ」 雨降る東名高速道で、ハンドルを握りながらYasが言った。 「下見って言ってるけど、去年のは段取りが悪くて中止になったから、仕方なく一人で登ったんだろ?」 「あーっ、岡本さんよく言うよな、去年は登る気無かったじゃない。嫌がってたでしょ。」 「岡本君は嫌がってたけど、うちは私もMackyもKunnyも楽しみにしてたんだよ。」 後部座席から、おかあさんが物静かに言う。そのトーンは上ずることなく低い分だけ、威圧感があるのだった。 「私なんか仕事休み取ったんですよーっ!」 Mackyが追い討ちをかける。 Kunnyは黙したまま折り紙を折り続ける。 「・・・ごめんなさい」とYasが降伏・・・も、不満気。 |
その2 いつまでも少年の心を・・・ |
ぼく(岡本)の携帯が鳴る。軽快なルパンV世のテーマ。 「あっ、ウリ坊ですー。埼玉組、今足柄SAに着いたんですけど、千葉組は今どこですか?」 「あと30分くらいで足柄SAかなぁ・・・」 「そーですか。なんかこっち、約1名が腹減ったってうるさいんですよ。」 「だれ?ENO?」 「決まってるじゃないですか。先に晩飯食っていいかって・・・」 「ダメ!待ってろ。」 「それが言うこと聞かないんですよね・・・あ痛っ・・・ダダっ子だから」 「んーっ。しゃーないから、ジャンボフランクだけなら食べてもいいや。」 「(ENOにむかって)ジャンボフランクなら食べてもいいって。えっ、足りない?岡本さん、足りないって言ってるんですけど・・・」 「しゃーない。ジャガべーくんも食べていいよ。」 |
その3 それぞれの事情 |
千葉組、無事足柄SAに到着。埼玉組と合流すると、早速中華レストランへ向かったのだった。 「ねえねえ、小山さん。8月末までうちにたっクン(Emmyの息子)来てたでしょ。抱っこしてたら腰が痛くなっちゃって。」 おかあさんは腰をさすりながら小山隊長に進言した。 「私も体重が落ちないんですよ。まずいなぁ・・・」 小山隊長も腹をさする。 「オレなんか昨日の夜家に帰るの遅かったから、殆ど寝てないんです。」 Yasはそう言うと目頭を押さえる。 「私も夏休みの宿題がまだ終わらないから、徹夜続きです。」 Kunnyは折り紙を折る手を休めるっことなく申告する。負けじとぼくも、 「ぼくも痛風の痛みは治まったけれど、足が腫れたままで、靴が入らないんですよ。」 登る前から各々言い訳を始めるとは・・・先が思いやられる。 |
その4 雨上がりの夜空に |
千葉組・埼玉組揃って御殿場ICを下りても、雲は厚く小雨が降り続いていた。富士山登山の出発が危ぶまれる。一同の心は少し重くなるも、千葉組Kunnyのては軽快に折り紙を折り続けていた。 「しかし、大学で夏休みの宿題が折り紙ってーのも変じゃない?」 ぼくが眠気覚ましにつっこむと、Kunnyは手を止めることなく答える。 「みんなでいろんな折り紙を折って、折り紙の折り方の本を作るの。」 「夏休みっていつまで?」 「もう終わってる。」 「じゃぁ、Kunnyが宿題やらないから、他のみんなに迷惑かけてるんだ。」 「いや。みんなもまだやってない。」 「おいおい、お前らホントに大学生かよ」 すると、運転をしていたYasがKunnyに助け船。 「あれ?卒論提出しないまま卒業した大学生っていましたよね。」 「私、会社で卒論のページふりしたわ。」 と、おかあさんも援軍を出す。 「おっ、お前ら、昔のこと言うなーっ」 こんな状況に陥ることもなく、車は富士の裾野へ突入。霧が濃く立ち込め、視界を遮る。 「なんか出そうだよね。」 誰となしにつぶやくこの一言が、妙にリアルに感じられる。「富士の樹海と東京湾には多くの人が眠っている」ということは、日本国民の誰しもが抱いている既成事実(?)なのだ。 そんな不穏な空気満載のまま車は急カーブを幾度となく曲がっていくと、遥か前方に灯かりが一つ。 「あの灯かり、なに?」 「んっ?んーっ・・・、山小屋?」 「星じゃないの?」 「星〜っ、うっそーっ。」 気がつくと霧は晴れ、電灯とも星ともつかない光がぼく等を導いていた。 |
その5 役割を果たす男(隊員名簿参照) |
10:30pm、新5合目駐車場は予想以上に混雑していた。9月に入り、山小屋が閉鎖されたにもかかわらず、登山客は大勢いる。 車を停め、一同外に出ると、思いっきり伸びをする。すると上には満天の星空が。 「すっげーっ、天の川がはっきり見えるよ。」 「ホントだ。きれいだね。」 小山隊長とYasが星空を見上げながら語り合っていた。星に関して無知なぼくとENOはいつもの如くはしゃぐのであった。 それぞれ着替えを終えると、どこからともなく「登っちゃおうよ」と声が上がる。 「えっ、みんな休まないの?休むでしょ?休もうよ。12時まで仮眠。去年は1時から登り始めてちゃんと御来光拝めたから、12時まで寝てても大丈夫だから。」 Yasはよっぽど疲れていたらしい。みんなを説き伏すと早速車に乗り込み、仮眠の態勢。 しばし静寂の後、フロントガラス越しにYasが光に照らされる。光源ではENOが微笑んでいる。 「早く登ろうよ。」 酒が入っていなくても、ENOは夜の部担当だった。 |
その6 折り紙折りの少女 |
Yasのいびきがかすかに響く千葉組Yas車の中で、がさごそという音がする。 「Kunny、いい加減に寝ときなさい。」 おかあさんの低いトーンにくじけることなく、がさごそは続く。 「Kunny、みんなの迷惑になるでしょ。」 おかあさんの声のトーンが少し上がった時、Kunnyはドアを開け、外に出た。 「Kunnyは意地になっちゃうから、こーなると言うこと聞かないのよね。」 Mackyは冷静に妹を見つめるのであった。 表でKunnyは一人暗闇の中、寒さに耐えながら・・・と思いきや、表にたむろっていた埼玉組の大歓迎を受けながら、折り紙を折り続けたのであった。 それにしても、小山隊長・ウリ坊・ENO・じつよは元気なこと。 |
5合目までは車で 山頂までは四苦八苦 ここが日本の最高峰 下山は膝が笑ってる |
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