山頂までは四苦八苦


その1 Ready Go !!

 11:45pm、ぼく、おかあさん、Mackyが車を降り、準備を始める。その音で目覚めたYasは時計を見るなり一言。
「えっ、12:00出発?12:00まで休みじゃないの?」
 Yasの悲痛な叫びは、待ちきれない埼玉組にあえなく却下され、いよいよSTART。
 くや探初の苦行・荒行の幕が満天の星空の下、切って落とされたのだった。



その2 集えし者、性別・年齢・国籍を問わず

 闇の中、各々のライトが足元を照らす。未だ営業中の6合目の山小屋を過ぎてからは、夜空には月と金星が光るものの、頼りになるのはライトだけとなっていた。
 9人が1列となって闇の中を進んでいく。様々な登山客を追い越したり、追い越されたり。男連れやカップル、男女混合団体様と、日本一の頂を目指す猛者達がただひたすら前へ進む。その姿はあたかも故・北島監督の教えを忠実に守る明治大ラグビー部の如く。
 意外だったのが、外国人の方々が多かったこと。せっかく日本に来たのなら、もっと他に行くところがあるのでは?と、ついつい思ってしまう。ぼくなら京都へ行くと。きっと、わざわざ富士山に登るために来日したのではないと思うけど。それにしても、日本に生まれ富士山に登ったことがある日本人と、日本に滞在している間に富士山に登る外国人の割合は、後者の方が大きいに違いない。ゲイシャ・フジヤマ・スシ・テンプラ。
 ぼくらを金髪・ロン毛のいまどきの男女数人が追い抜いていく。その中の女の子が、
「こんな頭で登ってるのって、私たちだけだよね。」
  うん、確かに登山客には珍しい髪型だ。しかし、それ以上にぼくは彼女たちに言ってあげたいことがあった。
「厚底スニーカーで登っているのは、お前らだけだっ!!」
 当然言えなかったんだけどね。


その3 この男、多汗症につき

 小山隊長を先頭に、ENO・じつよ・ぼく・おかあさんと続き、後方にMacky・Kunny・Yas・ウリ坊と続く。前3人は常に快調に、少し遅れてぼくとおかあさん、さらに遅れて後方4人。大体この隊列で、黙々と歩く。15分に1回、小休止をし、呼吸を整えるとともに、全員の無事を確認する。
「やっぱり暑いね。」
 深夜の登山ということで、みんなかなり着込んでいたが、自らの発熱が厚着にはばまれ、汗が滴る。みんな着ていた上着を脱ぎ、上気した身体をCOOL DOWNさせる。しかし、小休止が長くなると、汗が冷えてしまい、寒ささえ感じる。富士山登山って、難しい。
「チョコ食べよっ、チョコ。」
 小山隊長は小休止ごとにポケットからチョコを出し、口にする。
「おかもっちゃん、食べない?」
 最初のうちは「よぉ食うなぁ」と思っていたのだが、一度口にするとやめられなくなる。ぼくはあまり甘いものが好きな方ではないのに・・・。遭難する人はどうしてポケットにチョコを入れていて、チョコで飢えをしのぐのか、気になっていた理由が分かったような気がした。でも、どちらかというと先日飢えをマヨネーズでしのいだ遭難者の方が、共感が持てるのだ。しかし、何故にマヨネーズを持って遭難したかも疑問である。
「そろそろ行こうか」
 小山隊長の発令に一同が立ち上がり出す。
「ちょっと待ってよ。」
「どーした?おかもっちゃん。」
「眼鏡が曇っちゃって、前が見えない・・・」
 一同、ぼくを覗き込むと、笑い。
「写真撮るからそのまま、そのまま」
 Yasがザックからカメラを取り出す。
「させてなるものか・・・」とばかりにjぼくは神経を集中、見事シャッターチャンスを与えることなく曇りを止め、出発したのだった。
 でも、次の小休止の時にまた眼鏡が曇って、Yasに写真を取られちゃったんだけどね。



その4 ちょっとどんでん返し。  

 登り始める前、「ついていけなかったらどうしよう」という不安を抱いていた。「どうしよう」というよりは「かっこわるいだろうなぁ」に近いのだが・・・。でも、それはきっとぼくだけでなく、みんなが同じ想いだったに違いない。だって、みんな登る前からあんなに言い訳していたし。
 ぼくの中では、過去に3時間半で登頂の経験を持つ小山隊長は別格。山岳青年で去年登頂しているYasも、明らかにぼくより上。ウリ坊も団体競技以外は運動神経がいいし、最近はプール調教に励んでいると聞いている。ENOは酔った時のブランチャは見事だけど、しらふでは活発なとこ見たことないから、ENOとの争いかな・・・、女性陣に負けるわけにはいかないし・・・。こんな位置づけをしていたのだが、思わぬ波乱が待っていたのだった。
 相変わらず先頭は小山隊長。「昔と比べたら、衰えたよ」といいながらも、軽快な足取り。続いて、じつよちゃんが顔色変えずについていく。妻には負けじとENOもペースを落とさない。後方では落伍者フォローをしていると思ったYasに異変が!
「隊長〜っ、Yasさんがグロッキーです〜。」
 小休止で遅れだした後方を待っていると、ウリ坊の叫び声。一同びっくりしてYasを見ると、本当にバテてる。
「大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、やっぱぁ、寝不足がぁ・・・」
 駐車場での悲痛の叫びは、ホンモノだったのか・・・


その5 伏兵出現! 

 登り進むに従い、気温は下がり、空気は薄くなっていく。小休止の際も後方が遅れだし、高山病の恐怖がぼくらに迫りだした。Yasに加え、Macky、Kunnyの息も荒くなり、かなりキツそう。そんな中、じつよは顔色変えず、息を荒げることなく、元気に先頭を引っ張っている。
「ねえ、じつよちゃん。キツくないの?」
 小休止で眼鏡を曇らせながらぼくが聞く。
「私、もともと標高の高い信州育ちだから、大丈夫みたい。」
 じつよの表情に疲れはまるで見られない。
「もしかして、マタギの娘?」
「えっ、マタギってなんですか?」
「狩りをして生計を立てている人かな。」
「うちの父、そんな職業じゃないですよ。」
「じゃぁ、今まで知らされていなかったけど、本当はマタギの娘だったっていうのは?」
「うーん、ちょっとないかなぁ。」
「マタギはヤクザじゃないから、カタギのマタギなんだよ。」
「えっ?」
「マカオのオカマと似たものかな。丹波でルンバとも言うね。」
「へっ?」
「それって、マンゴータンゴとか、ビンゴボンゴとかと一緒だよね。」
 お馬鹿な言葉遊びはウリ坊も加わって、空気のいきわたらない脳細胞を間違った方向に活性化させるのであった。


 

その6 流れ星にいつかなる、この星に今立っているんだ 

 一行が9合目にやっとこたどり着いた頃、空は白み始めていた。このあたりまで来ると、登山道脇でへたり込んでいる人や、御来光を待てずに下山する人が多くなり、高山病が猛威を振るっていることが目に見えてわかった。くや探メンバーもMackyとKunnyの表情がさえず、他のメンバーの疲労の色も濃くなってきた。ぼくはといえば、高山病の影響はなんら受けていなかったのだが、日頃の運動不足と肥満がたたって、疲れ気味。しかし、山道にも慣れてきたため、山頂への意欲は万々だった。
 9合目山小屋前での休憩はちょっと長めに取る予定だったので、ザックを開けてびっくり。朝食時に飲もうと思っていた牛乳のパックが、低い気圧に膨張してしまい、一部割れて牛乳が漏れているではないか。
「Oh,my God!!」
 ザックの中に漏れ出た牛乳を拭き取り、残ったっ牛乳を飲もうとストローをさした時、Yasが立ち上がった。
「ここよりも9.5合目の山小屋の方が御来光きれいだから、そこまで登っちゃおうよ。」
 えっ、お前さっきまで死んでたのに、急に元気になっちゃって・・・。
 面々がそれに呼応して立ち上がると、足早に歩き始めた。
「ちょっと待って。ぼく、まだ牛乳を飲みきってない・・・」
 ぼくの声を聞いていたのかいなかったのか、みんなはそそくさと行ってしまったのだ。ふと見ると、傍らには衰弱っしきったMackyが。
「大丈夫?」
「はぁ、はぁ、私にかまわず、先に行って下さい。」
 と言われても、うら若く可愛い女の子を置いて先に行けるわけもなし。とはいえ、ぼくもいいところで御来光を拝みたいし。
「ゆっくり、休み休みでいいから、ちょっとずつ登ろうよ。ぼく、付合うから。」
 息の荒いMackyはゆっくりながらも一生懸命少しづつ歩を進めた。小休止の回数が多くなるが、気温も下がる一方なので、汗が冷えて休むのもつらい。
「Macky、大丈夫?もううちょっと、あの鳥居まで、あの先の尾根へ朝日を見に行こうよ。」
 ぼくは騙し騙しMackyを歩かせ、なんとか御来光の見えるポイントまでたどり着いたのだった。あっ、やばいっ。こんなふうに書くと、ぼくは自分が御来光を見たいばっかりにMackyに無理をさせたようにとらわれてしまう・・・ある意味そうなんだけど・・・。Mackyに嫌われちゃう。
「もう嫌われてるよ。」
 みんなの声が、聞こえるようだ。
 厳しい寒さの中で見た御来光は、その光の先がぼくに触れるのを感じることができるのではないかと思うくらい、繊細でかつ鮮やかに見えた。
 御来光を背にしたMacky。フラッシュをたいたので、写るかと思ったけど、失敗だったね。

ちょっと不気味。ねずみ小僧が入ってます。
 御来光後も気温は上がらず、Mackyから体力を奪っていく。「もうここまでか」と思いながらも置いていくわけにも行かないし、とはいえ、他のメンバーは登っていったまま、ぼくらの視界には見当たらず・・・。かすかに1本見え隠れするアンテナサインを頼りに携帯電話を使うも、応答なし。そうこうしている間にもMackyは弱っていく。ぼくに高山病の兆候がまるで現れないだけ、なおもどかしい。
 苦しみっていつかは消えてしまうものなのかな。ため息は少しだけ、白く残ってすぐ消えた。

 その頃、本隊は・・・
 
  


その7 それぞれの9.5号目

 ご来光拝見後、へたり込むMackyをさらになだめすかし、ぼくらは9.5号目を目指した。きっとそこには先に登った本隊が待っているに違いない。でももし山頂へ向かってしまってたらどうしよう・・・。これ以上Mackyに無理はさせられないし、かといってここまで来たら山頂まで登りたいし・・・。
 そんな葛藤を心の中で繰り返しながら、9.5号目の山小屋の石垣を見上げると、見馴れた顔が並んでた。なんだか、ホッとした。
 重大任務を終えたかのように深深と腰を下ろして休もうとしたが、日の出直後の気温の低下はピークに達し、じっとしていられない。陽射しは斜めから燦燦と降り注いでいるというのに。
 朝食用に持ってきたおにぎりも冷え冷えで、食道を冷気が通過しているようだった。なんだかBlueだったんだけど、隊長とYasの入れてくれた紅茶はとても温かく、次への活力が沸いてくるようだった。さんきゅ。
 Mackyはかなり重症のようで、山頂までのTRYを断念。本隊と行動していたKunnyも限界だったみたいで、仲良く下山することとなった。
 そしてぼくらはあと0.5号の山頂を目指し、出発した。

  5合目までは車で 
 山頂までは四苦八苦
 ここが日本の最高峰
 下山は膝が笑ってる

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