artな戯れ言2008


このページではartな戯れ言を集めて掲載しています。


「Good Night Sleep Tight」を観る(08.12.21)

 三谷幸喜脚本・演出の新作、『Good Night Sleep Tight』。今回は中井貴一と戸田恵子の二人芝居。舞台はベッドルーム。夫婦が過ごしたベッドルームを、過去と現在を行ったり来たりで、30年の二人を振り返る。二人の歳月、別れに至るあれやこれや。
 三田に作品に共通することなんだけど、どうして男ってこんなにバカなんだろうか?音楽家である夫は若き日はヒモ状態だし、その後だって情けないったりゃありゃしない。正直、こりゃ別れるって言われるのも当然って感じで。それに較べて女の強いこと。いつの時代も笑顔で旦那を支えている。彼女がとてもたくましいだけに、旦那の情けなさが一層浮き立って。上手いなぁ、三谷幸喜。
 二人芝居と言いながらも、生演奏を取り込んだり、ペットの太郎を操ったりと、小技を効かせまくってて、そのたびに笑いが起こる。
 大きな転機や仕掛けがあるわけではないんだけど、夫婦の機微が、その積み重ねが笑いだけでなく、しんみりさも醸し出して。ぼくは残念ながら一人身なんだけど、誰かとともに時間を過ごす、時間を共有するってこういうことなのかなって思った。もう忘れてしまったかもしれないエピソードのひとつひとつが、未来へつながっていく。舞台上の夫婦は残念ながら別れを選んでしまったけれど。
 パンフレットによると、旦那は三谷幸喜自身をモデルにしているという。いやいや、そんなダメダメな男じゃないんじゃないの?ところが、同伴者と話をしていたら「本当の音楽家って、もっとダメダメだよ」だって。おそるべし、芸術家とやら。
 今回のコメディはただただ笑いで圧倒するのではなく、とてもハートフルで胸に詰まる素敵なお芝居だった。結婚かぁ。考えちゃうなぁ、いろいろと。


エスニック
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石田衣良「灰色のピーターパン〜池袋ウエストゲートパークY」を読む(08.12.20)

 シリーズも第6作に突入。トラブルシューター・マコト誕生から6年、文化や風俗は目まぐるしく進化・衰退を繰り返すけど、マコトの周りの絆は変わらずに池袋に根付いている。根本がぶれないマコトがいるから、どんなに社会が変化しようともこのシリーズは続いていく。むしろ社会が変化した方がこのシリーズは面白くなる。マコトの正義を通して、池袋をはじめとする都会の文化を読み取ることができる。なんとも上手い作りなんだろうか。
 今回の4編も今(正確に言うと単行本発売時である2年前)の文化・風俗が描き出されている。携帯電話で撮影したパンチラ写真を売り捌く小学生、被害者と加害者のその後を描いた作品、無認可保育施設とシングルマザー、浄化という名の風俗規制。実際にありえそうな出来事、もしかしたら実際にあった出来事を、マコトの目を通して語られていく。実社会ではなにが正しいのかなんて正直誰にもわからない。でも、小説としてはきっちり善悪を見せてくれるし、ぼくらはマコトの正義を前5作で十分以上知っているから、読み物としてとても楽しめる。
 個人的にはマコトが描く絵にタカシやサルが絡んで、池袋の街を守るって方程式がすごく好き。今度はどんな作戦なの?ってワクワクしてしまう。
 マコトを通して知る社会・風俗・文化。IWGPはある意味現代の実用書なのかもしれない。


エスニック
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「イッセー尾形のこれからの生活in真冬の札幌」を観る(08.12.19)

 年2回のお楽しみ、イッセー尾形の札幌公演。『真冬の札幌』というタイトルながら、一昨日から降り始めた雨のおかげで、市内の雪は融けてしまって。
 暑かろうが寒かろうが、会場内はいつもの盛り上がり。今回もすべて新作なんだけど、確実に笑いが巻き起こる。イッセーの創作する人物の表情が豊かであること、近くにいそうでいないことなんかが親近感をもたらし、絶えることのない笑いを生んでいるんだろうなぁ。
 とにかく全身すべてが見どころなんだもん、その研ぎ澄まされた表現力には脱帽なのです。
 いつもの通り、勝手につけたタイトルでちょっとだけ寸評を。
 『ご来光』
 ご来光を見ながら行動を起こすといいことがあるのかな?忘年会で盛り上がり、ご来光を見ながらフラダンスを踊りに来たオバ様たちの悪戦苦闘。頭のてっぺんからつま先まで、全身の表情にご注目。
 『アマンド』
 会社の窮地はアマンドで立て直す。30年アマンドに通い詰めた男の、強気でなるか巻き返し。
 『マエストロ、キレる』
 オーケストラの中でおしゃべりといえば・・・。途中で退席したマエストロになにが起こったのか?オケに集う人々を、内股のバイオリニストが不思議な音色で奏でます。
 『老け顔小学生』
 小5の彼は身長170cm。老けているのは誰より自覚している彼の、あどけないませ方が絶妙なので。「どうしてあの時、追いかけなかったんだろうか・・・」なんてトラウマにならないように。
 『お盆はビーチで』
 降り注ぐ陽射しと灼熱の砂浜。たまにはお盆をビーチで過ごすのもありじゃない。でも、日傘が足りないのよ。お肌のシミが気になる(今更気にしても・・・)オバ様の夏です。
 『大阪で生まれた女』
 銀座のホコ天に乗り込んできた浪花の3人娘。馬油のサンプル配りに失敗し、東京に敗北感を味わった彼女たちがみせる最後の意地とは。
 『語り部おばあちゃん』
 怖い話、悲しい話、おろかな話。地元に伝わる昔話を、おばあちゃんが語ります。なにより怖いのは、おばあちゃんが途切れ途切れで。身内も含めて子供たちに伝統を伝えることはできるのか?
 『レインボー商店街』
 地元のシンガーが、商店街の歳末大売出しを盛り上げるために歌います。


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いしいしんじ「ポーの話」を読む(08.12.3)

 大人のお伽話作家と勝手に呼んでいるいしいしんじの長編小説。うなぎ女の息子として泥川で生まれ育ったポー。大雨を機に慣れ親しんだ泥の川を出る彼の旅の果てにあるものは・・・。
 いしいしんじの作品の持つ切なさがこの本にも詰まっていてさ。ポーの設定(精神的に無垢)がずるいとは言はないけれど・・・やっぱずるい。それによりポーの行動のすべてが切なく感じる。いや、それだけではないんだけれど、意識しないでやっていたことの償いを続けているって感じてしまって、胸が締め付けられる。心が温まる反面、その切なさにぐらついてもしまう。
 ある意味、ひどい作家だよなぁ。ポーにあんなに過酷な想いを背負わされるんだもん。なんか苦しくなっちゃったぞ。
 それでも読んでしまうのが、いしいしんじのなせる技なんだろうなぁ。


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「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」を観る(08.11.29)

 確かに最低の作戦だな、これは。忙しくなると無性にお馬鹿映画が観たくなるんだよね。なんでだろう。
 いろんな意味で個性派俳優たちが、戦争映画の撮影で本物の戦場に連れて行かれる。すべてが芝居だと思っているんだけど、飛んでくるのは実弾の雨あられ。果たして彼らは無事脱出することができるのだろうか?
 のっけから大笑い。本編始まっているんだよね?って疑心暗鬼になったりして。スプラッター苦手のぼくには目を覆いたくなる映像もいっぱいなんだけど、コメディだとわかっているからかきっちり観ていられる。要は気持ちの持ち方しだいなんだろうなぁ。
 正直、お下劣な何でもありコメディ。感動の戦争映画をも笑いのネタに貶めていく。それがまた痛快なんだ。決して冒涜しているわけではない。きちんと見どころに変えてるんだもん。
 そういえばシチュエーションは『ザ・マジックアワー』と一緒だなぁ。同じコメディでも、質はまるで異なるけどさ。
 笑えた。屈託なく笑えた。そしてベン・スティラーに惚れそうになった。最後はトム・クルーズに華を持たすところなんて、監督としてもお洒落だぞ。
 あんまり文章にできないけれど、リラックスして観られるコメディだった。


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「レッドクリフ PartT」を観る(08.11.22)

 弱者が強者を打ち負かすジャイアント・キリング。圧倒的な数を誇る曹操の軍勢に対峙する孫権・劉備連合軍の赤壁の戦いは、まさにジャイアントキリングそのものだと思う。智略と結束が大敵を打ち破る。三国志最大の魅力だと思う。
 それがついに映画化される。これまで三国志の映画って観たことなかっただけに(有名どころでは)、とても敷居とハードルの高い領域に位置しているんだと思っていた。ジョン・ウーがその高みについに挑むという。がんばるなぁ。
 一番の問題は、三国志という壮大な物語の一部である赤壁の戦いだけをいかに観せるかだったと勝手に思う。曹操・劉備・孫権がそれぞれに持つ闘うための大儀・志の違い、登場する軍師や武将と大将との絆。それらには三軍三様の物語があり、それを踏まえての赤壁の戦い。赤壁の戦いだけを切り抜いてしまったら、三国志ビギナーに面白味は伝わるのか?
 実はつい最近まで『レッドクリフ』が2部作とは知らなかった。そういうことね。今回のPartTは赤壁の戦いに至る経緯と前哨戦まで。ハッキリ言って登場人物紹介で終わっている。やはりそこに時間をある程度さかなければ、三国志の面白さは伝わらないもんなぁ。前説となると飽きてしまうかとも思ったけど、そこはジョン・ウー。登場人物一人一人にしっかりと見せ場を作ることで、映画としての楽しさを保っている。やりすぎのきらいもあるけどね。
 今回の作品の魅力のひとつが、曹操・劉備・孫権ではなく、孫権の片腕の周瑜と劉備の軍師・孔明を主人公としたところ。ジャイアントキリングの原動力となる智略と結束を前面に描くという意思表示のようで、軍師好きのぼくにはたまらんかった。逆に、大将がただの女好きだったり臆病者だったり、ちょっとかわいそうな気もしたけれど。
 魅力といえば長江の映像も。おびただしい数の軍艦の群れもさることながら、長江に移りこむ周囲の景色や軍艦の影がきれいなんだよなぁ。
 しかし、こうなるとPartUのハードルってさらにあがったよね。この映画が戦闘シーンを観せるだけのものになるのか、赤壁の戦いをひとつの物語として描ききるのか、この後も続くサーガの導入となるのか。ぼくてきには真ん中がみたいんだけど、きっと一番力量が必要だよな。どうする?ジョン・ウー。って言っても、もう撮影は終わっているんだろうけどさ。
 そうそう、ぼくが観たのは字幕版だったけど、吹き替え版もあるようで。吹き替え版では甘興を演じた中村獅童はそのまま自分のアフレコをしたというのに、孔明役の金城武のアフレコは別人がやっている。これって金城武の日本語が流暢じゃないからってこと?いやいや、そこはやっぱり本人がやらないと。
 いや〜、三国志読み直したくなったよ。さすがに小説は疲れるから、横山光輝のマンガ版で。


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ナンシー関「大ハンコ展」を観る(08.11.6)

 6月の上京の際、時間が足りなくて泣く泣く観るのを諦めたイベントのひとつがこれ、『ナンシー関 大ハンコ展』。開催していたパルコにまで足を運んだのにと悔やんだのだが(一番の目的はPARCO劇場だったけど)、まさか札幌でも開催されるとは。もう、うれしくってスキップしながら行っちゃった。
 2002年に急逝されたナンシー関が彫り続けた5000個以上の消しゴム版画。有名人・時の人に加え、素朴な光景や毒・艶のあるものまで、消しゴム版画というワンショットで描かれている。それはまさに一コママンガ。有名人が似ているのはもちろんながら、添えられた一言が絶妙で噴き出してしまう。雑誌でよく観たあの独特な画の素が一同に並んでいるのはもう壮観。ひとつひとつを、一文字一文字をとにかく目で追ってしまう。
 それだけでない。ぼくは呼んだことがほとんど無かったけど、コラムニストとしての彼女の目の鋭さ、ひるむことなく活字にした強さが、紹介されたパネルからビシバシと伝わってくる。なんて凄い人だったのか。彼女に所縁のある著名人がビデオレターの形でコメントしているけど、その人柄のよさが偲ばれている。聞きようによっては毒にも聞こえてしまうような言葉も、ナンシー関というフィルターを通し、版画が添えられることにより、愛情あるがゆえの言葉なんだとわからせてくれる。
 東京では「30分あれば観るんだけど・・・」と思っていたけど大間違い。一通り観るのに要した時間はなんと1時間30分超。見応えがありまくり。で、どっぷり浸かりまくり。
 ぼく的には彼女の彫る田中邦栄ともたいまさこが特に好き。似ているだけでなく、すごくキャッチーなんだもん。でも、好きなのひとつあげると言われたら、迷わず渡辺篤史を選ぶのだ。だって、添えられた言葉が最高なんだもん。「こんなところに収納がっ!」だなんて。
 彼女は39歳で亡くなられたわけで。今のぼくよりも2つも下。消しゴム版画を彫る才能はもちろんのことだけど、批評する目についてもぼくは彼女には遠くおよばない。あの大きな背中すら見えない状態である。ホント惜しい才能を失ったんだなぁ・・・ってつくづく感じたのだ。


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演劇集団キャラメルボックス「君の心臓の鼓動が聞こえる場所」を観る(08.11.1)

 久しぶりのキャラメルボックス。HPを見直したら、2002年以来の観劇。PUREなハートを揺さぶられる作品の数々。見続けていた頃はアベレージヒッター的な感じがしていたけど、久しぶりに観るとやっぱり長距離バッターだった。今にして思うと、観続けることの贅沢さに気づいていなかったんだろうなぁ、あの頃は。
 6年の月日はぼくを四十路にしただけでなく、キャラメルボックスという劇団にも年輪を与えていた。看板役者である西川浩幸が、今回の舞台では19歳の娘の父親となっている。なんかいい感じに時を利用しているなぁ。
 脚本家の父親の元に、ある夜突然14年前に別れた娘が現れる。戸惑う父。でも、仕事が忙しく満足に話を聞いてあげることができない父は、娘とすれ違ってばかりで・・・。なぜ娘は突然現れたのか?親子がきちんと向き合うことはできるのか?
 彼らにとって北海道公演は5年ぶりだそうで。だからなのか、北海道向けのサービスがいっぱい。登場人物の名字は北海道の地名だったり、随所に北海道ならではの小道具が出てきたり。アフタートークとしてTEAM NACSのリーダー・森崎博之を招いて、作・演出の成井豊と製作総指揮の加藤昌史が舞台裏を語ってくれる。前説が加藤さんでなかったのでさびしくもあったけど、アフタートークで大満足。
 今日が新作初日ということで、ちょっとドタバタ感もあったけど、それも今日しか観られない楽しみということで。すべての言葉をよどみなく話すなんて日常生活でも無理なんだから、かえってリアリティがあったかも。
 いい感じにホロリとさせられる。寒くなり始めた北海道にピッタリの、ハートウォーミングな舞台だった。


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海堂 尊「ナイチンゲールの沈黙(上)(下)」を読む(08.10.31)

 いま気が付いた。文庫本2冊をあわせると、表紙が1枚の絵になるのね。
 そんなことはともかく、『チーム・バチスタの栄光』に続く行灯先生・田口とロジカルモンスター・白鳥が活躍するシリーズ第2弾を読んださ。先に書いとくけど、面白かった。
 本作も舞台は桜宮市の東城大学医学部付属病院。病院ってそんなに事件の巣窟なのか?と思いがちだけど、本作は一味違った構成なのだ。前作は既に医療事故の連続発生があって、その調査が田口先生に回ってきたのだけど、本作はなかなか事件が起こらない。その代わり、前作は事件の中で足早に流れてしまった登場人物の背景が、本作はじっくり描かれている。そして、小児科医療の抱える問題点なんかも。そして、前作は犯人当てが主体で犯行手段は専門過ぎてわからなかったのに対し、本作は犯行手段とアリバイ交錯を見抜くようなつくりとなっている。前作が『シャーロックホームズ』ならば、本作は『刑事コロンボ』なのだ。今風に言えば『古畑任三郎』ってとこ。
 読み始めたときは「事件はもう起きているの?まだなの?」なんてやきもきもしたけれど、伝説の歌姫・水落冴子やオレンジ新棟のディーバ・浜田小夜、マネージャー・城崎や警察の凸凹コンビ、小児科病棟の子供達など魅力的なキャラが出てきて飽きさせない。特に子供達が陶酔しているヒーローもの『バッカス』の世界観はとても緻密で面白すぎ。『バッカス』で一冊書いてもらいたいくらい。
 それでいて、現在の医療に関する問題への警鐘を入れているなんて(これは解説を読んで知ったことなんだけど)、すげー物語だ。
 これから続く『桜宮サーガ』、まだ見ぬ白鳥の部下・氷姫などなど、興味心身で早く読みたいのです。だからどんどん文庫化お願いします。


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「ガリレオ 容疑者xの献身」を観る(08.10.30)

 実に面白い。
 連続ドラマだった『ガリレオ』の映画版。ドラマでは湯川教授と女刑事・内海との掛け合いが種で、犯人側の描写って限られたものだったけど、今回はひと味もふた味も違う。時として耳障りですらある内海の声は抑えに抑えて、犯人側の描写と犯人vs湯川にバッチリと焦点が当たっている。この静かなる対決が実に面白い。
 ドラマ版では現象を実証するのが湯川の役目だったけど、今回は過程の証明。物理学ではなく数学の領域に踏み込む湯川。物理学の天才vs数学の天才。天才同士であるがゆえの葛藤。言葉になりません。
 冒頭で愛を否定する湯川が、友人のために愛を証明するなんて、泣けます。
 あと、最大の見所は松雪泰子。あの生活感溢れる美しさ。疲れた表情の中の艶。これがなければこの映画は成り立たない。彼女の弁当屋なら、ぼくも毎日通う。彼女のためなら・・・。この気持ちは男じゃなけりゃわからんだろう。
 フジテレビの策略にまんまと乗せられているのはわかっているし、悔しくもあるんだけれど、面白いんだもんしょうがない。連続ドラマの映画化に対して「映画にする必要はあるのか?」との声をよく聞くけど、この際面白いんだもんしょうがない。金払ってでも観たくなるから映画になるってところでしょうか。


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「パコと魔法の絵本」を観る(08.10.7)

 ぼくの大好きな劇作家の一人、大王・後藤ひろひと作の『MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』の映画化、『パコと魔法の絵本』を観た。残念ながら舞台を観ていないので比較はできないけれど、ファンタジーの旗手である大王の作品に、ありったけの映像効果を加えて、なんとも素敵な物語になっているではないか。ちょっと・・・いや、かなりずるいぞ、中島哲也。
 そもそも『下妻物語』のPOPさで驚かされ、『嫌われ松子の一生』のミュージカル仕立てに癒されただけに、絶対やられるとは思っていたのよ。だって、どちらもSTORY自体はたいしたことなかったり、いやになるほど暗い話でしょ。それをあそこまで見どころのある映画に仕立てた監督がさ、大王の芝居を映画化するとなれば面白くならないわけがない。だって、STORYと映像がきっちり両輪となるんだぜ。そして案の定。これはホント、万人に観てもらいたい映画なんだな。子供にも観せたくなるような。
 登場人物のコスプレもさることながら、CGの面白さ、とりわけキャラクターのよさが抜群で。絵本の中の物語を120%伝えてくれる。
 個人的にはこの映画を海外で上映してもらいたい。物語といい、CGを含めた映像といい、完成度がものすごく高いだけに、PIXARやDREAMWORKSがどう評価するか、聞いてみたい。いやホント、通用するよ、この映画。
 中身については観てのお楽しみ。ぼく的には冒頭に大王がエルビスになったところから大笑いだった。
 ホント、ホントにいい映画だった。必見です。


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「グーグーだって猫である」を観る(08.10.5)

 KYON2の主演映画。KYON2演じる人気漫画家とペットである猫の関係を通して、登場人物たちの恋や生を描いている。15年寄り添った愛猫・サバを亡くした漫画家・小島麻子。仕事も滞ってしまう彼女がペットショップで見染めた猫、それがグーグー。
 グーグーがかわいいのはもちろんのことだけど、KYON2の感情の起伏が見て取れる表情がいいんだよなぁ。長年のKYON2好きとしては、落ち込む顔、微笑む顔、はにかむ顔、戸惑う顔、その他もろもろ全てがいとおしく思えてくるんだよなぁ。しかも、顔だけじゃなく・・・でへっ。
 猫を含め、ペットが人々に与える力って大きいんだろうなぁ。ペットを飼わないぼくにはわからないけど。癒されたり、勇気をもらったり。
 この映画、グーグーが駆け回る吉祥寺という街がとても楽しく紹介されている。ぼくは数度しか行ったことがなく、あまり馴染みではない街なんだけど、新しさと懐かしさが混在する感じは、東京で住んでみたい街No.1と言われるのに納得って感じ。ぼくもまた上京することがあれば、住居の候補に入れてしまいそう。家賃高そうだけど。
 そうそう、加瀬亮にちょっとびっくり。朴訥な好青年的なイメージが強かっただけに、ちょっと横柄な語り口は新鮮だったなぁ。気づいたらもとのイメージに戻っていたけれど。
 猫はとても可愛かったけど、この映画は『子猫物語』とは大きくテーマが違います。大人の機微がわからない子供には、かなりつらい映画でしょう。今日もたくさんの子供連れが来場していたけど、大半の子供が途中で騒ぎだします。子供連れの鑑賞には十分な気配りを。
 グーグー。グーグーといったら、ぼくには『Gu-Guガンモ』かな。
 自分を見つめ直す時間の中で、ゆとりを与えてくれるなにかがそばにいたら、きっと切羽詰まる中にも余裕が生まれるんだろうなぁ。なんてこと考えたりして。それが家族なのか、動物なのか、まったく違うなにかなのかは人それぞれなんだろうけどね。


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KKP#6「TRIUNPH」を観る(08.10.4)

 KKP#5に引き続いてのKKP#6観劇。箱が大きくなったよ。なので、約束どおりぼくも一人引き連れて観劇したのだ。
 もはや小林賢太郎スタイルなんだろうか。根っこはベタな物語なんだけど、肉付けで笑わせるこの作風。今回は随所に手品を散りばめて、枝葉で勝負の大舞台。
 枝葉はとにかく楽しかった。面白いというより、楽しい。コミカルな動きがふんだんに取り入れられており、観て楽しい舞台構成となっている。特に魔法のほうきに乗るくだりは、ハンナ&バーベラのアニメを観ているようで、ほっこりしてしまう。小林賢太郎の作品にはハンナ&バーベラ風の懐かしテイストが何度も観られる。きっと、ハンナ&バーベラを想って観ている人は少ないと想うけど。だって、客層が若いんだもん。
 前回も書いたけど、やっぱり熱狂的ファンが多いのよ、小林賢太郎には。だから、以上に場内は盛り上がる。舞台はもちろん面白かったけど、それ以上の大爆笑が起こるから、評価がユルくなってしまう。箱が大きくなれば、それなりに厳しい眼も増えるかと思ったけど、そうはならなかったようで。ちょっとした小言だけど。
 面白さという意味ではラーメンズや小林賢太郎ソロに軍配が上がるけど、芝居を全面に打ち出したKKPには楽しさが溢れていて、ぼくの中ではきっちり住み分けができたって感じです。


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JAKE SHIMABUKURO「"Music Is Good Medicine" JAPAN TOUR 2008」を観る(08.9.30)

 すっかりクセになってしまったんです。ちょうど1年前に受けた、ジェイク・シマブクロという衝撃。彼が手にしているものはウクレレであってウクレレでなかった。当然、ウクレレをウクレレでなくしているのは、彼の卓越した技量によるもの。あんなすごいもん見せられたら、病みつきにならない方がおかしいくらい。ウクレレを手にしたことのあるものなら当然。
 そんなジェイクがほぼ1年ぶりに札幌の地に舞い降りた。ウクレレ野郎、降臨。会場に入ったら、今回はドラムとウッドベースとチェロがスタンバイしているではないか。今夜はバンドスタイルなのか?そしてジェイク登場。メンバーを従えて、イカしたGIGを披露してくれる。ウクレレ1本のときとは違い、重厚な演奏なのだ。まさにすごい厚み。その重低音に乗って奏でられるウクレレの音色たるや、なんともFUNKY。「ウクレレ=癒し」的なイメージにまたひとつ味が加わった。もちろんFUNKYだけじゃなく、あの手この手で魅了させられる。ウッドベースもなんだけど、チェロもまたいい感じでウクレレを引き立てる。弦楽器の持つ柔らかさがなせる技なのかな。
 そんな新発見のバンドスタイルも全体の3分の1。残りは当然、ジェイクの独奏。これについてはもはや語る必要がないっていうか、語ることができないっていうか。ぶっちゃけ、泣けてきます。1年前は同じウクレレ弾きとしてのショックが強かったけど、今はそんなのどうでもよくって、とにかくジェイクの奏でる調べに酔いしれるのみ。穏やかなさざ波あり、荒れ狂う荒波あり。でも、どんな波でも心地良い。最高ですがな。
 そして最後にサプライズが。アンコールも最後の曲。ステージを降りて通路を歩き始めたジェイク。その通路際にはぼく。ジェイクがぼくのところで立ち止まる。目と目が思いっきり合う。そのままにこやかに首を傾ける二人。まさに同じ仕草。目と目で通じ合う、そういう仲になった瞬間だった。同じウクレレ弾きとして、魅かれあうものが合ったに違いない。
 ジェイク、予想以上に色白でびっくり。
 また深くジェイクの世界に引き込まれた最高のライブだった。


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有村朋美「プリズン・ガール―アメリカ女子刑務所での22か月」を読む(08.9.29)

 この本を読もうと思った理由は・・・。やっぱり20代前半の女の子がアメリカ女子刑務所に入ったということへの興味からかな。オヤジが週刊誌のゴシップに嬉々とするが如く。女子刑務所ってことは・・・なんて妄想もそりゃあったさ。だって中年オヤジだもん、ぼく。表紙の絵もPOPだし。
 これは実話である。だから実録記というか、エッセイというか、ルポタージュなのである。だから、結構重いトーンなのかもしれない。その重さに耐え切れなかったら、投げ出してしまおうと思っていた。泉ピン子が監守しているような雰囲気だったら。
 ところがこれがLight感覚というかなんと言うか。もちろん、それが悪いというのではない。反省の色が見えないなんて言う気は毛頭もない。むしろ、そのおかげで楽しく読むことができた。楽しんでいいのかもちょっと怪しいところではあるが。
 塀の中の人々はとてつもない懲役を食らっていたり、すごく厳しい境遇なのではあるが、それを踏まえながらもまずは女性という視点で記されていて。彼女たちが外の世界でしてきたことは決して許されるべきことではないけれど、一人の女性としての側面を描いている。誰にでもドラマはあるし、敵役もいる。
 ただ、すべてを読み終えて振り返ると、ぼくにとって一番不可解なのはやっぱりトモミだった。彼女が罪に問われてもなお守ろうとした愛について、ぼくにはちょっと・・・。だから、第一章は読んでいて一番辛かった。それは獄中へのプロローグであるからかもしれないけれど。その後が希望を見つけていく展開だったからかもしれないけれど。それ以上に、ぼくにはトモミを理解できないからの方が強いような気がする。
 これはアメリカ女子刑務所のガイドでもマニュアルでもなく、そこに服役する女性たちの素顔を描いたルポタージュである。そこにできるコミュニティの物語である。誰かの反省や、誰かの懺悔をことさら強く描くのではなく、刑務所の中の普通の日々が描かれている。中年男の当初の期待は大きく外れたけど、それ以上のまったく別物の面白さが詰まっていた本であった。


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「20世紀少年 第1章」を観る(08.9.14)

 ぼくは大切なものを取り戻すために、立ち上がることができるだろうか?
 大好きなマンガ『20世紀少年』が映画化された。あの壮大ながらも緻密な物語が、3部作で映画化されるのだ。ものすごい期待と、それと同等の不安が入り混じったけど、不安はまったくの杞憂に終わった。なんのこったない、マンガはマンガで映画は映画なのだ。同じ物語だけども、映画の長所とマンガの長所は異なるんだから、お互いが足りない部分を補えばいい。それができていて、実にホッとしたし、とても面白かった。
 最初にマンガを読んだときに驚愕した物語が、スクリーンで生きた人間により再現される。「ともだち」を信奉する人々の狂気の様なんて、予想はしてたがぞっとしてしまう。でも、集いし戦士たちの力強い眼差しには、観ているこっちに勇気が湧いてくる。もしかしたら、ぼくだって立ち上がれるかもしれない。ケンヂにはなれなくても、マルオくらいになら・・・。
 Around40の男優がこぞって出演。それぞれが似合っていて、味を出していていいじゃん。それと対比してしまう子役の使い方も上手いんでないの。個人的にはドンキー役の生瀬勝久。唐沢や豊川もよかったけど、心底ドンキーって感じがするもん。あと、マルオの石ちゃん。そうそう、今回は出番が少なかったけど、ケロヨンの宮迫も笑えた。今後に期待です。
 そしてユキジの常盤貴子。キャスト発表のときは「え〜っ」と思ったけど、よかったなぁ。ユキジが後押ししてくれるなら、ぼくも立ち上がれるような気がする。いや、絶対カッコつけて立ち上がっちゃう。
 監督・堤幸彦も独自色や悪ふざけを出しすぎず、『20世紀少年』の世界観をきっちり構築していて、Goodです。
 なにより一番なのは、脚本に浦沢直樹が参加したところなんだろうなぁ。
 やべぇ、マンガ読みたくなってきた。とりあえず2000年大晦日のところまで読んじゃおうかなぁ。あぁ、第2章が待ち遠しい。来年の1月末。あぁぁぁぁ。


エスニック
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「スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ」を観る(08.9.13)

 うれしくてたまらない。『エピソード3/シスの復讐』がシリーズの最後だと思っていただけに、形は変われどまたあの世界を観ることができるなんて、この上なく幸せなのだ。
 「3Dアニメじゃ・・・」と言う人もいるけれど、ぼくはOK。きっと、ぼくら世代は問題ないと思うんだよね。だって、『サンダーバード』や『プリンプリン物語』で育ってきたんだから。
 いやいや、『エピソード2/クローンの攻撃』と『エピソード3/シスの復讐』の中間に位置し、アニメ作品である『クローン大戦』の直後に位置するこの作品。共和国とジェダイ評議会を敵に回して暗躍するドゥークー伯爵の次なる狙いは、ハット族だった。息子を誘拐されたジャバ・ザ・ハット。救出に向ったのはオビ=ワン・ケビーノとアナキン・スカイウォーカー。そしてジェダイ見習い(パダワン)のアソーカ・タノだった。
 いろいろ意見はあろうけど、ライトセーバーの閃く斬光のカッコよさ。武者震いするんです。そんな戦闘シーンはもちろんだけど、物語的にも面白い。オビ=ワンとアナキンの固い絆にアソーカも加わって、戦闘の緊張感の中に丁々発止のやりとりが繰り広げられる。この後に訪れる悲劇を知っているだけに、楽しかった日々を回想しているようで胸がキュンとしてしまう。
 この手法であれば、例え役者が年老いてもシリーズは続けられる。ハリソン・フォードが老いても、ハン・ソロは復活できるではないか。そしたらハン・ソロとチューイーの物語だって。チューイの毛並みを3Dで再現するには、PIXARの技術が必要かもしれないけれど。
 おっと、その前にアソーカの物語があるよね。なにやらTVシリーズになるらしいから、楽しみに待つとしようか。
 とにかくまだまだ続く『スター・ウォーズ』の世界。ファンにはたまりませんわ。


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劇団ひとり「陰日向に咲く」を読む(08.8.31)

 そうだったのか・・・。『陰日向に咲く』はまず映画を観ていたので、話の概要はわかっていた。とにかくひとつひとつのエピソードが力強く、ホロリはおろかボロボロと泣かされるってことは。わかってはいるけれど、小説を読んでまたやられてしまった。劇団ひとりってすごいなぁ。
 映画を観たときに、エピソードをつなぐサークルについて少し書いたけど、小説版もモーゼが核となり、「アメリカ兵をぶん殴った話」でつながっている。でも、そのつながりは映画ほど完全なものではなく、エピソードの持つ個性が強烈に印象つけられるようになっている。
 正直、小説版のほうがコアでディープなのだ。そこがものすごく面白い。一般社会から離れたアンダーグラウンドの世界あり、ちょっとほろ苦い青春があり。登場するすべての人に劇団ひとりの愛情が込められている。きっと、鏡の前で一人一人を演じたに違いない。だからこそあんなに生命力のある人たちが描けるんだ。ウソ泣きの名人が、読者を自分のテリトリーに引きずりこんで、本当の涙を流させる。うまいなぁ。
 映画版・小説版。一粒で二度おいしい作品とはまさにこれって感じ。こうなるとまた映画を観たくなる。映画を観終えたらまた小説を読みたくなるんだろうなぁ。
 バラエティ番組全盛ながらも、フルでネタを観る機会がほとんどない現在のテレビ事情。また、劇団ひとりの演じるキャラクターの活躍をじっくり観たくなってきた。


エスニック
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「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」を観る(08.8.28)

 ジブリ製作アニメーションの背景を描いている男鹿和雄さん。アニメーターや演出家にスポットが当たりがちなアニメの世界で、背景画の作家の個展が開かれるなんて、なんか珍しい。ジブリ作品の自然観やほんわか感を支える背景画の世界、観てみようじゃありませんか。
 のっけから驚いた。すっかりジブリの世界Onlyと思っていた。緑を基調としたマイナスイオン満喫の背景ばかりと思っていたら、男鹿和雄のデビュー当時からの作品があって。んで、そこにはぼくの大好きな『ガンバの冒険』の背景画も。夕陽を映すちょっと荒れた海の絵なんだけど、もう感激。前に『奥利根湖ひとり漕ぎ』で書いたんだけど、チーフディレクター・出崎統氏の言葉がすごく好きで。
「海や川、湖の水の色ってみず色って先入観を捨てることから始めた。晴れの日や嵐の日で色は変わるし、空や景色を映し出しもするから。」
 男鹿和雄の描いた海もまさにそれで、夕陽の赤をしっかりと映しているんだけど、波の立っているところは影ができていて。それだけで「うおぉぉぉっ!」って感じで。ぼくがひとり漕ぎして歩いている理由がそこには描かれていて、昨日までひとり漕ぎしていたわけで。この絵、売ってくれないかなぁ。
 他にも『あしたのジョー2』の泪橋なんて、くぅ〜っ。ジブリ参加以前の作品はすごく幅が広い。当然ジブリ時代も幅が広くはあるけれど、ジブリ色に統一されているから、それ以前の幅の広さに驚かされてしまう。背景をも記号化したような挑戦的な『はじめ人間ギャートルズ』の背景もあれば、緻密に書き込まれた未来の絵『幻魔大戦』まで。『はだしのゲン』のきのこ雲の切なさが込められた美しさは、日本人が決して忘れてはいけない想いが込められているのだ。
 ジブリ参加後の牧歌的な作品は、とにかく光の使い方がすごい。光が与える濃淡が背景画に奥行きを与えていて、ジブリ特有のCGなしでも立体感を感じられる作風に大きく寄与している。ホントそれがすごい。葉の一枚一枚、太陽を隠す雲の一条にも濃淡が多く書き分けられる。ぼくなら一色で塗りつぶしてしまいそうなところに、多くの色が使い分けられている。それにワイプをかけたりといった視線の効果が加わるもんだから、アニメの背景画では済まされないすごいものがわんさか。
 時系の定点観測みたいな所もすごい。同じカットでも、朝昼晩の光の射し具合による変化や、もっと長いスパンでの移り変わりなんかも実にリアルで。工事現場で盛られた土が、放置され風雨にさらされることにより形態が変化していく様は、「よくぞそこに気が付いた」と感嘆の声を上げたくなる。
 仕事柄、岩肌なんかが描かれているとまじまじと眺めてしまうんだけど、層理の様や風化の具合までもが情報として詰まっている。こんなスケッチ、一応本職だけど描けやしない。石積みの石のひとつひとつの形の違い、野原といいながらも、そこに自生する花草木ひとつひとつの違い・・・すげぇ。
 まだまだ書きたいことはいっぱいある。でも、ぼくが言葉をたくさん並べたところで、一見にしかずなんだ。とにかくすごいものを見せられているのだ。
 背景画に限らず、挿絵にしてもクオリティは変わらない。この人、ナニモノだぁ?
 アニメーションにおける背景の使い方もわかり易く説明されていて、めちゃくちゃ具だくさん。すっごい濃密な時間を過ごすことができたのだ。
 会場は札幌市芸術の森美術館。文字通り、森に囲まれた美術館なので、鑑賞後に木々をじっくり眺めてみた。この光景を描くことができるだろうか・・・。無理だ。


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石田衣良「下北サンデーズ」を読む(08.8.21)

 テレビ朝日系列で放映していたドラマ、観てたのよ。視聴率が悪く、打ち切りになったけど、河原雅彦の脚本や小劇団の俳優が多く出演していたこともあり、観続けたんだよなぁ。ちょっと監督・堤幸彦の(脚本家のか?)遊びが多すぎて、「あたっ」と思うこともかなりあったけど。だから、原作を読んでも里中ゆいかとくれば上戸彩だし、サンボ現はカンニング竹山以外の誰でもないのだ。
 しかし、さすが石田衣良。ドラマではふんだんにあった余分なところが、原作にはまるでない。里中ゆいかと劇団下北サンデーズの成長をストレートに書き綴っている。ゆいかの入団がサンデーズの転機のきっかけとなり、劇場すごろくを駆け上がっていく。きっとこんなトントン拍子なんてそうそうないんだろうけど、演劇界を取り巻く状況が縮図のように詰まっていて、面白いんだな、これが。
 やっぱり劇団員一人一人のキャラクター付けが効いているんだろうな。キャラを大切にするために、無駄な劇団員は登場させず、作りこまれたキャラたちを掛け合わせることで、小劇場という濃密な空間を作っている。こうなったら、小説中で演じられている『サマータイム・ストレンジャー』『セックス・オン・サンデー』『サイタマ・スイマーズ』『さよならサンセット』を劇場で観てみたい。戯曲化してどっかの劇団で上演してくれないかなぁ。でも、それらの作品は小説中のキャラへのアテ書きだから、難しいかな。
 とにかく演劇好きのぼくにとっては楽しめる一冊だった。ドラマで先入観をもった方にも楽しめる作品だと思うよ。


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上橋菜穂子「虚空の旅人」を読む(08.8.12)

 『守り人シリーズ』のチャグムが、ついに一人立ちです。一人立ちと言いながらも、横にはピッタリとシュガが付いているんだけどね。今回はこのコンビが、隣国サンガル王国の危機、ひいてはいつか訪れるかもしれない新ヨゴ皇国の危機に立ち向かうのだ。
 一連の作品を読んでいつも思うのは、女性の心身ともに強い物語だということ。これまでの作品は、バルサとトロガイの強さと、タンダの優しさが絶妙に絡まって、チャグムやその他の人々を包んでいた。さバルサのいない今回の作品、誰が強さを見せるのかと思ったら、バルサやトロガイとは違う強さを、サンガル王国の姫君たちやラッシャローの娘・スリナァが見せてくれる。それぞれがそれぞれの強さを。チャグムが主人公なんだけど、サンガル王国の次男坊・タルサンの勇ましさもあったんだけど、やっぱり今回も女性陣に包まれての物語だったな。
 野生児のようなタルサンが、いろいろあったとはいえぼんぼんのチャグムにイラっときたの、わかるなぁ。
 さて、シリーズはここから大きな流れとなって動くそうです。気になる・・・。ついに全面・・・か?早く続刊を文庫化してくれよ。


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「百万円と苦虫女」を観る(08.8.11)

 蒼井優がいろんなところでたそがれる、静かなブームのほんわか映画か・・・と、彼女の笑顔を観に行ったら、これがとんでもない大間違いだった。『自分を探さない旅』がこんなにも切ない旅だなんて。
 短大卒業も就職できずバイト生活の鈴子を襲う、ある事件。一人で生きていくことを決めた鈴子は百万円が貯まるたびに、自分を知る人が誰もいない土地へ行き、また百万円を貯める生活をするのだった。
 他人に縛られない生活を望む鈴子だけど、行く先々で人が寄ってくる。そりゃそうだ、蒼井優だぜ。おれだって声かけちゃうよ。かわいいもん。
 いやいや、その土地土地で鈴子のうわべだけを見る人と、鈴子のすべてを見ようとする人がいて、鈴子を通してわかることがあったりして。
 森山未來の純情さもよかったし、ピエール瀧の素朴さもよかった。いろんな土地で、いろんな男性に会い、故郷には唯一心の通うようになった弟がいる。これってまるで女性版・寅さんではないか。
 ってことで、国民的映画を目指してシリーズかもありかな。
 とにもかくにも、蒼井優はかわいいのだ。


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石田衣良「LAST」を読む(08.8.3)

 追い詰められた人の最後にとる行動とは?石田衣良が直木賞受賞後に書いた、受賞作『4TEEN』とは真逆な明日のない短編集を読んだ。登場人物たちは何らかの事情で、明日が見えない人たちである。必ずしも明日がないわけではないが、積極的に迎える明日ではないのだ。待っていないのに明けてしまう夜。
 残念ながらそこまでネガティブに朝を迎えたことはないので、正直「?」だらけで読んでいたけど、追い詰められたらこう感じてしまうのかなぁ。なんかすべてが異次元の物語で。でも、もしかしたらぼくも明日にでもあちら側に立っているかもしれないんだよなぁ。
 石田衣良の書く作品は、あちら側とこちら側の両面が描かれているものが多いけど、主人公はみな、こちら側にとどまろうと必死になっている。でも、ここまで突き放された小説を読んでしまうと、「結構石田衣良って慈悲がないよなぁ」なんて思ったりもして。それに関してはあとがきでご本人からの言葉もあるので、納得はできるんだけどね。
 ってことで、毛色の変わった石田作品。ぼくにはちょっと馴染めなかった・・・というか、馴染みたくなかったシロモノだったけど、面白いことは確かだった。


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一青 窈 CONCERT TOUR 2008
「Key〜Talkie Doorkey」を観る(08.7.29)

 ぼくは彼女になにを期待してLiveを観に行っているんだろうか?
 正直ここ数年の彼女の新譜を聴いているわけではない。だから、CMや映画に使われたSingleなら「ああ、これ」と納得するんだけど、その他の新しめの曲はサッパリ。それでもなぜかLiveに行ってしまうのは、正直もらい泣きしたいがためなんだろうなぁ。一青窈のLiveには特別な思い入れがあるんだな。もらい泣きする準備はできている。ハナから目は涙と目やにで溢れんばかりだ
 でも、そんな客って彼女にとってはどうなんだろうか?ステージ進行が流暢になればなるほど、「あのたどたどしかった頃が懐かしい」と思い、アイドルを思わせるようなノリノリの曲でフリを強要されると引いてしまう。『金魚すくい』は素直に踊れるのに・・・。まぁ、いろんな思いを胸に抱いた人が集まっているんだろうから、それはそれでOKなんだろうな。
 やっぱり、『大家』『もらい泣き』『ハナミズキ』は泣ける。いろんなこと思い出して、ただただ聴き入ってしまう。彼女の持つ声と言葉の力に、立ちすくんでしまう。知らぬ間にぼくの身や心にまとわりついた不浄のものが落ちていくようで。ははは、そんな大げさなものではないけれど。
 ステージの演出や構成、進行が格段と上手くなった・・・と思いきや、本編終了のメリハリのなさ、アンコールしたらいいのか、衣装替えなのかが判らないアタリ、あの頃の一青窈がまだ残っているのね。そこら辺はバンマス・武部さん、ちゃんと仕切ってあげなくちゃ。
 ということで、彼女の歌声に浄化されたぼくなのでした。ひっちゃかめっちゃかな文章で、ごめんなさい。


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曽我部敦史「大江泉水のはじめてのスピリチュアル」を読む(08.7.28)

 どこかで聞いたことのあるような名前。でも、決して着物を着たり、美輪さんの隣に座ったりしません。そもそも、そんな輩が書いた怪しい世界の入門書でもありません。むしろ、そんな世界を揶揄したけったいな小説です。
 童貞のまま、三十歳を迎えると、魔法使いになれる。
 そんな都市伝説が物語では広まっている。そんな都市伝説をにわかに信じた健夫くん29歳9ヶ月が、ポテティ広告に誘われて訪れた『大江泉水スピリチュアルカウンセリングセンター』。そこはスピリチュアルを感じさせるものがなにひとつない空間だった。
 彼女イナイ歴29年の建夫くんに初めてできた彼女。もちろん騙されているんだけど、掌で転がされている建夫くんの、それでも信じる童貞ならではの思い込みには、過ぎ去りし日の自分を重ねざるを得ない。それほど建夫くんの気持ちはよくわかる。きっと、男性全員が(よほど早くに童貞を捨てた人以外)、建夫くんに若き日の自分を見ることができると思う。それが、それこそがこの物語の全てです。
 とはいえ、大江泉水という男、かなり味のあるオヤジと見受けた。なんだかんだ言って、きっちりカウンセリングしてみせ、しかも、心のケアも忘れない。これは続編もありだよね。次はどんな迷える子羊が彼を訪ねるのか、楽しみでたまらない。
 あっ、でも全体的にお馬鹿な物語なので、読むときは肩の力を抜きまくって読んでね。


エスニック
artな戯れ言BOOK

「ウーマン・イン・ブラック〜黒い服の女〜」を観る(08.7.22)

 すっげぇ〜濃い、たまらん二人芝居だった。上川隆也と斎藤晴彦。舞台人ならではの濃密なやり取りが繰り広げられる。一度観たいと思ってたんだけど、こんなに面白く、すごいもんだとは知らなかった。
 弁護士が自分の過去と決別するために、若き日のとある出来事を家族や友人たちに語りたいと、演出家兼俳優にアドバイスをもらいに行く。アドバイスを請われた演出家は、聞く者を飽きさせないためにも芝居仕立てにするべきだと提案し、若き日の弁護士を演出家が、その他の人々を弁護士が演じるとして稽古を始めたのだが・・・。
 劇中劇、しかも稽古。最初は戸惑い、声も出なかった弁護士が、徐々に上達し、大勢の登場人物を演じ分けるまでに至る過程は、見ていて圧巻。主役(といっても若き日の自分なんだけど)を完全に喰ってしまう勢い。弁護士は若き日の自分を演じる演出家をどう思って観ていたんだろうか。
 イギリスの辺境地、砂州によりつながり、一定時間しか行き来のできない孤島に建つ屋敷。ここの主である未亡人の遺産整理に訪れた若き日の弁護士が屋敷で見たものとは?
 教文(札幌市教育文化会館)のデカイ舞台が、二人でいっぱいに満たされたいいお芝居だった。圧倒されまくり。


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和田 竜「のぼうの城」を読む(08.7.20)

 読んじゃった、『のぼうの城』。「単行本は読まない」という自分の中の掟があるんだけど、ハードカバーじゃないから手首も疲れないだろうし、今読んでおかないと、文庫化されるのはいつになることやら。映画かも決まっているそうだし(犬童一心監督)、すごく売れているらしいし。今読んでおかないと、波に乗り遅れてしまうではないか・・・てことで。
 この城、敵に回したが、間違いか。
 豊臣秀吉の関東平定。圧倒的な軍勢の前に、戦わずして降る城が続出した中で、石田三成率いる二万の軍勢と真っ向対峙した三千の兵たち。秀吉が唯一落とすことのできなかった、彼らが守る忍城とは?彼らを率いる城代・のぼう様とは?
 これが痛快。権力と金こそが戦のすべてと考えているような三成に対し、坂東武士の誇りと勇気と心意気で戦う忍城の面々。好きなんだな、小が大を喰うジャイアント・キリングをやってのける人々の気概が、ぼくは。それを指揮する男の才気が・・・って思っていたら、身分を問わず領民から「でくのぼう」扱いされているのぼう様の、ひと味もふた味も違うこと。有能でクセのある面々を束ねる将って、こういうものなのか・・・。目から鱗でぼくには到底真似できないんだけど、確かにこの男になら付いて行く・・・いや、この男のためならやってやるって思うんだな。読む前はジャック・スパロウ系のキャラを予想していただけに、心地良い裏切られ感だね。
 のぼう様のキャラだけじゃなく、他の登場人物もみんないい味出しているし、スリリングな攻防や会話の機微など、面白いところ満載。ベストセラーに大納得。これは映画も楽しみだ。
 ってことで、未だ発表されていない映画化のキャスト、ぼくならこんなメンバーで。ちょっと意外でしょうが、のぼう様はイイ顔の男がやっちゃいかんでしょ。でも、佐藤浩市あたりがキャスティングされそう。
役 名 キャスト 備  考
成田長親 古田新太 のぼう様のON-OFFの使い分けができる役者といえば、彼でしょう。
正木丹波守利英 江口洋介 あの冷静沈着ながらも、内に秘めたる激情を上手く出してくれそう。
酒巻靭負 妻夫木聡 二宮和也でもいいんだけど、爺様たちにかわいがられる感じで。
柴崎和泉守 阿部寛 ちょっとイメージより細めだけど、ワイルド感は出してくれそう。でも、阿部寛の正木もありだよなぁ・・・。見た目だけなら春日俊彰(オードリー)。体格的には合わないけれど、寺島進もいい感じ。
甲斐姫 多部未華子
迷う。深津絵里、田中麗奈がいいんだけど、年齢的に・・・。蒼井優だとほんわかしちゃうし、
たへえ 小日向文世 農民役、似合いそう。いざという時の誇り高さも。
ちよ 吹石一恵 なにがあっても笑顔を見せてくれそうだから。
かぞう 大倉孝二 実は大倉孝二の"のぼう様"も見てみたい
阿部サダヲ、河本準一のかぞうもおもしろいかなぁ。
石田三成 永瀬正敏 戦を知らない武将って感じがするかな。
大谷吉継 佐々木蔵之介 どんな場面でも冷静に三成を諭す落ち着きを出してくれそう。
長束正家 音尾琢磨 北海道では有名な役者さん。TEAM NACSです。演技上手いです。


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川端裕人「銀河のワールドカップ」を読む(08.7.13)

 ロナウジーニョは実名なのに、ロベカルがボビカルで、ベッカムがベルバウムなのか?誰が読んだってロベカルとベッカムだ。ジダンにいたってはゼットンだなんて。この物語の目指すところはいったい何処なの?
 なんてことを読み始めたときには思ったんだけど、目指すところは『銀河のワールドカップ』なのね。すぐに納得したよ。
 小学生離れした技術と絶妙のコンビネーションを持つ三つ子との出会いにより、再び少年サッカーの指導に熱意を持った元Jリーガーの花島。そして結成されたドリームチームが『桃山プレデター』。これが面白いサッカーをしてくれる。個人能力を尊重し、型にはめない花島の方針と、子供たちの自主性が上手く噛み合って、とんでもない境地を見せてくれる。これが実にワクワクさせられる。子供ひとりひとりがきっちりと書き分けられているのも面白い。三つ子は顔こそ似れど、三者三様の性格を持ち、キャプテン翼は新たな才能を見つける。男勝りなのに行動(プレー)の根本が男にあるようなエリカや、隣町から加入した小さいマラドーナ。チームを包む技量を持つGK。ダイエットで始めながらも、コンプレックスを持ちながらも、長所を生かしていつの間にか欠かせない存在に成長する玲華なんて、読んでて微笑ましいばかりで。
 花島が子供たちに課す練習も、ブラインドサッカー(目の不自由な方がやる競技)あり、フットサルあり、ビーチサッカーあり。場所だってスーパーの駐車場や人通りのある商店街。なんじゃこれ的な練習に実は意味があったりするなんてところは、『破壊王ノリタカ』や『みどりのマキバオー』といった少年漫画を読んでいるみたいで、これが痛快なのだ。そして花島はまず”楽しむこと”を子供たちに教える。なんだって楽しむ気持ちがなくちゃ、やっている意味がないと。その想いが桃山プレデターを通じて対戦相手にまで伝わるところが、これまた少年漫画みたいで。
 桃山プレデターが銀河のワールドカップを目指したひと夏の物語。大人も十二分に熱くなれます。


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Point Green! 富良野音楽祭2008を観る(08.6.28)

 今年も富良野音楽祭に行ってきまして。環境・エコをテーマに開催されている音楽祭。富良野での開催は今年で2回目。『北の国から』『優しい時間』の影響で、日本有数のクリーンなイメージの街になっているんじゃないだろうか。そんな癒しの街での音楽祭は、今年もとっても優等生なイベントになっていた。
 なんたって、このイベントの提唱者ということで、鴨下環境大臣が来ていたのだ。正直、そんな政治家がいたことすら知らなかったので、すれ違ってもわからなかっただろうけど、ステージに上がった彼にはSPが二人ついていて。偉い人なんだと。
 去年までは富良野スキー場の駐車場にステージ&客席を設置していたんだけど、今年はゲレンデ。裾野の部分なんだけど、歩いて上るにはなかなかの傾斜がついているので、自然ひな壇になって観易くなった。でも、トイレや売店が遠くなり、行くたびに斜面を登らねばならなくなったので、ビールやつまみを気楽に買いにいけなくなった。売り上げは減ったんじゃないかな。
 トップバッターは昨年同様沢田聖子。ラジオ番組などで富良野への貢献度が大きいそうだ。なによりMCが上手く、先陣を切って客をなごませてくれる。このイベントには欠かせない存在なんですね。一曲目が去年と一緒だったので、まさか?って思ったけど、そんなことはさすがになく、聴かせるライブだった。
 2番手はDEPAPEPE。今回は2人+パーカッションの少人数編成。その分、ギターのナマ音を存分に聴かせてくれる。野外の風にギターの音色が心地良く乗って、爽快感抜群。いつもながらのゆる〜いMCもハマってたし、ちょっと強引な観客巻き込みも音楽祭のボディブローになっていて、Goodです。
 3番手は平原綾香。正直彼女の曲って『Jupiter』しか知らなかったので、勝手に白いブラウスと白いロングスカートが似合う人と思っていたんだけど、赤のノースリーブ&黒いミニスカート&黒いハイカットブーツの彼女はアメコミに出てくるスーパーヒロインかと思ったよ。んで、『Jupiter』の熱唱の記憶しかないので、声を張る人かと思ったら、意外とウィスパー&ハニー&ファニーボイスなのね。新発見。でも、やっぱり最後の『Jupiter』熱唱には圧倒された。カッコいい。
 トリは今年もゴスペラーズ。昨年同様、ノリノリのライブが始まると立ち上がったら、今年はうって変わってしっとり系の落ち着いたラインナップ。もちろん湧きどころも押さえているんだけど、会場の傾斜を意識して、けが人が出ないよう配慮したのかな?とは言え、たのしいライブであることに間違いはなく、彼ら曰く「今のところ最後のヒット曲『ミモザ』」や新曲、懐かしいところ、最大のヒット曲なんかを聴かせてくれました。
 アンコールは出演者全員がアコースティック(演奏はDEPAPEPEのギターのみ)で『真っ赤な太陽』。この曲で観客参加型構成はもともとゴスペラーズの持ちネタらしいんだけど、今回はそこにDEPAPEPEのボディブローが効いてきて、最高に楽しいラストになったのだ。
 環境を意識して、照明設備の必要がないよう、開催時期を早めて夏至近くに行われた今回の音楽祭。サミットも近いし、ちょっとはエコを心がけなきゃと思えるライブだった。環境大臣の顔は覚えられないだろうけどね。


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畠中恵「とっても不幸な幸運」を読む(08.6.26)

 「とっても不幸な幸運」という名前の缶詰。100円ショップで売られているらしいその缶詰を開けると、摩訶不思議な出来事が起こるのだ。
 新宿のとあるビルの地下にひっそりとたたずむ『酒場』という名の酒場。酒と料理は絶品なのに、店長の経営方針からか、性格からか、常連客しか集まらないというけったいな店に「とっても不幸な幸運」という名前の缶詰が持ち込まれることから、事件が始まるのだ。
 2度までならまだ納得できる。しかし、騒動に巻き込まれると知りながらも、計5回も缶詰を発端とする騒動が起こるなんて・・・。事情はそれぞれなんだけど、3回目以降は『酒場』に集う常連たちも面白がってるんじゃないの?って疑いたくなる。何でも賭けに結びつける面々のことだから、半分以上は狙っているんじゃないの?まぁ、おかげで5作(+1)の連作短編が楽しめたんだから、常連たちに感謝しなければいけないか。
 酒飲みとしては作品内で繰り広げられるプチ・ミステリーもさることながら、『酒場』の雰囲気がとても楽しくて、そっち中心に読んでしまう。口は悪いけど、店長をはじめそこに集う人々は愛情に溢れていて、とてもいい雰囲気なんだよね。一緒に飲みたくなるような。問題はぼくが受け入れてもらえるかなんだけど。
 畠中恵といえば『しゃばけ』シリーズをはじめとする、時代小説の旗手かと思っていたけど、こんな洒落た現代小説も書いちゃうんだなぁ。こちらもシリーズ化して欲しい。
 解説で吉田伸子さんが、ドラマ化するならって彼女なりの配役を書いていた。うん、ドラマ化して欲しいよね。ぼくならこんなキャストで・・・。
  吉田伸子選 岡本直人選 備  考
店 長 坂口憲二 江口洋介 名前・髪型、ピッタリだと思うのよ
のり子 成海璃子 成海璃子 13歳にしては大人だけど、好きなんだもん
健 也 小池徹平 市原隼人 今は彼っしょ。陰ある感もバッチリ
花 立 遠藤憲一 宮迫博之 設定は30代でしょ?ならば彼


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「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」を観る(08.6.23)

 今日からぼくのこと、インディと呼んでもよろしくってよ。いや〜、『レイダースのテーマ』がず〜っと頭の中で鳴り響いて、ぼくの胸の中の冒険心をくすぐり続けている。正直、ハードな運動は体型的に厳しいし、泥だらけにはなりたくないし、密林で出くわすであろう虫は嫌いだし、蛇にいたっては・・・。それでも、胸の中の冒険心が騒ぎ出しそうで。
 19年ぶりのインディ・ジョーンズ。もう新作は製作されないだろうと思っていただけに、うれしすぎてたまらない。正直、19年の歳月が流れたことによるハリソン・フォードの衰えが気にかかっていた。最初のシーンで「やっぱり・・・」とも思ったが、設定がきちんと考慮されていた。今回の時代設定は『最後の聖戦』から19年後なのだ。つまり、ハリソン・フォードの衰えはそのままインディ・ジョーンズの衰えなのだ。納得・・・、いやいや、となると58歳(設定年齢)のインディの凄まじいこと。あんなに動ける58歳なんて・・・。
 過去3作でもお解かりの通り、面白いことはこの上なし。だって、ルーカスとスピルバーグのタッグだぜ。スリル満載の中に見せるユーモアの絶妙な間。ハラハラ、ワクワク、大爆笑。『インディ・ジョーンズ』シリーズ後に多くの冒険ファンタジーが製作されているけど、やっぱり本家にはかなわないわ。
 その上、ルーカスとスピルバーグのサービス精神が、画面のあちらこちらにうかがえる。それは『インディ・ジョーンズ』シリーズ内の小ネタにとどまることなく、「このシーンって・・・」みたいのが隠れている。彼らが牽引してきたハリウッド娯楽映画に対する、集大成的な要素が強い作品でもあるのだろう。
 ルーカスもスピルバーグも、『インディ・ジョーンズ』シリーズの継続を宣言していた。「えっ?」とも思ったけど、その答えは本編で明らかになります。
 できればテレビシリーズ『ヤング・インディ・ジョーンズ』のDVD化をお願いします。
 やっぱりインディ最高っ!


エスニック
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恩田陸「蒲公英草紙 常野物語」を読む(08.6.22)

 待ちに待った、『蒲公英草紙 常野物語』の文庫化。『光の帝国 常野物語』を読んだときから、常野一族の持つ不思議な力と、人との係わりを描いた作風の虜になってしまい、「早く次が読みたいよ〜」状態だったのだ。単行本は読まない方針なので。
 んで、読み始めて思った。「峰子、おまえが常野じゃないんかいっ!」って。てっきり今回の語り手である峰子が常野一族なのかと思っていたけど、さにあらず。常野一族を主観的ではなく、客観的に描いているのだ。常野一族をというよりも、常野一族が訪れた槇村の集落を描いていると言うべきなんだろう。
 常野一族の魅力にはまりつつも、かつて日本のいたるところにあったであろう原風景が、この作品、槇村には詰まっている。それは野山の風景だけではなく、人と人とのつながりとか。「県の南部、山を越えればすぐ福島」という環境は、明治維新後の西洋化や日清戦争を機に始まった軍国化の影響をさほど強くは受けず、奉仕の精神を尊重する集落。郷愁を誘うんだよね、札幌生まれのぼくにでも。現代人の忘れてしまったものがそこにはあって。作中では常野一族が持つ不思議な力は誰にでもあったと言う。それを忘れた過程がそのまま人とのつながりや奉仕精神を忘れた現代社会と同じなんだろうなぁ・・・って思えてくる。
 不思議な力を持つことは持たない者からしてみれば、『選ばれし人』ってイメージを持ってしまいがちだけど、常野の人たちはそれを望んだわけではない。でも、持っている者としての責務を感じて、それを果たそうとする姿は、涙腺の緩いぼくには・・・。
 冒頭付近に書かれている「自分が幸せだった時期は、その時には分かりません。こうして振り返ってみて、ああ、あの時がそうだったのだと気付くものです。」の一文はとても重みがある。なにが幸せか分かりにくい世の中、絶えず幸せを感じながら生きるのも難しいしなぁ。
 心にじ〜んとくる作品だった。既に第三弾が単行本で発売されているそうだ。早く文庫化して欲しい。専用のWebサイトもできている。
 (http://www.shueisha.co.jp/tokono/index.html
 常野の世界に触れてみてはいかがですか?


エスニック
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「ザ・マジックアワー」を観る(08.6.16)

 三谷幸喜をテレビで観ない日はない・・・ってくらい番宣しまくってた映画『ザ・マジックアワー』。劇中劇ならぬ映画中映画のコメディなのだ。
 ギャングの親分の愛人を寝取り、命の替わりに伝説の殺し屋・デラ冨樫を探し出すことを命じられたクラブの支配人・ビンゴ(備後)。彼が連れてきたのは売れない役者・村田大樹だった。映画の撮影と偽って。
 映画のセットのような街・守加護を舞台に繰り広げられる映画中映画。デラ冨樫になりきる村田に待ち受けるは、どれも修羅場と困難な局面ばかり。このピンチ、如何に乗り切るのか?
 大好きな深津絵里がスクリーンにいるだけで、基本オールOKなぼくなんだけど、今回はコメディエンヌとしての彼女はまた一段と魅力的。しかも彼女の歌まで聴けちゃうんだから、てへっ。
 ごめんなさい、いきなり色気づいちゃって。
 正直感慨深いものがある映画だ。ぼくが大好きなTVドラマ『淋しいのはお前だけじゃない』(脚本・市川森一)へのオマージュを勝手に感じている。『淋しいのはお前だけじゃない』はサラ金で借金を抱えた人たちが、大衆劇団として集まり、最後はサラ金のオーナーに一泡吹かすというお話。ドラマ中劇の要素と『スティング』のようなコン・ゲームにあふれ、以前インタビューで三谷幸喜が影響を受けたドラマとしてその名前をあげていた。そして、ドラマの主演は西田敏行。あの頃騙す側の役だった西田敏行が、今回は騙される側を演じてる。同じドラマを愛している者にとっては、ニンマリなのだ。『ザ・マジックアワー』には随所にいろんな映画のオマージュが込められているけれど、『淋しいのはお前だけじゃない』でニンマリしている人は数少ないんじゃないかな?
 もちろん、笑いどころが満載。劇場内の大勢が一斉に声を出して笑い出す映画なんてそうそうないよなぁ。あれだけ番宣で「面白い」と言い続けただけある。台詞の面白さ、展開の面白さは言うまでもないんだけど、今回は佐藤浩市の表情や演技が見どころで。彼にあんなことやらせるだなんて・・・すごい。
 とにかく出演陣も豪華・豪華。ちょい役と思われるような存在でも、めちゃくちゃ豪華な役者たち。贅沢やなぁ。
 などと書き連ねてみたけども、いくら書いてもそれはぼくの勝手な想いばかりで、この映画の面白さのすべては伝わらないんだろうなぁ。要するに、「観ようぜ!」ってこと。
 これで『マジックの種』の理解力が深まった。あぁ、あの種はこのシーンのことだったのか・・・って。


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Jamais Jamais「AB型自分の説明書」を読む(08.6.15)

 カミングアウトします。実はぼく、AB型なんです。
 渋谷の書店で気軽に読める本を探していた。だって、今回の上京はスケジュールがいっぱいで、感想とかまとめるのが大変だというのに、移動中に読む本まで気が回らない。だからなにも考えないで読める本を探していた。そしたら平積みになっていたこの本が目に付いて。
 なんか、結構評判だったみたいね。これまでA型とB型が出版されていて。その第3弾がO型でなくAB型とは・・・。一番売り上げが望めそうもないのに。
 で、読んでみたら面白かった。っつーか、めちゃくちゃうなずけた。さすがに全部に該当するわけじゃないけれど、8〜9割はきてるんじゃないかな。例えばこんなところなんてビッタシ。
 『自動的にお世辞が出る。』『オートで笑顔が出る。』『というか、その時々の対応は全自動設定。』『「喜怒哀楽」のコントローラーは持っていない。』
 う〜ん、まさにその通り。
 『「ど根性」という言葉が大嫌い。「ど根性見せろ!」「いやだよ」』
 ホントそう。他人のがんばっている姿を見るのは大好きなのに、自分は別なのよ。基本、キャプテン・ジャック・スパロウだから。
 『ボケとツッコミならツッコミ肌。』『のように見えて実はボケ。』『いじられるとイイ味が出る。』『自虐トークが得意技。』『でも人から言われすぎると静かにキレる。いろんなものが湧き出てくる。んのやろー!』
 もうね、ほんとそのまんま。なんで知ってるの?誰がチクったの?
 他にもいっぱいあるんだけれど、著作権の問題もあるからなぁ。いやいや、なにも考えずにめちゃくちゃ面白かった。


エスニック
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イッセー尾形のこれからの生活2008in初夏の札幌を観る(08.6.15)

 毎年恒例の初夏のライブ。今年もオール新ネタです。東京からあわてて帰っての観劇なので、コンディションは今ひとつだったけど、そんなの忘れてしまうくらい、目が冴え、気持ちが高ぶる公演なのです。
 では、いつものように勝手につけたタイトルでご紹介。
『フラダンス教室』
 広島県下の廃校を利用したカルチャースクール。早く集まりすぎたおばちゃんたちは、青空の下、自主練を始めるのです。人生経験豊富なおばちゃんたち。広島弁の会話には経験に裏打ちされた笑いが詰まっています。
『コインパーキング』
 若い兄ちゃんが待つのはキャデラックのオーナー。京都の道は狭いから、京都のパーリングは狭いから。だから車がぶつかるんだ・・・。オーナーと対峙したとき、兄ちゃんのとった行動とは・・・。
『パパとみづきと・・・』
 3人できた動物園。でも、みづきちゃんがなかなかなついてくれない。そうなの、オトナが考えている以上に、子供はオトナの事情を察知しているの。でも・・・。
『あのおっちゃん、泣いとるで』
 大阪の映画館で、見るからにその筋のおっちゃんが怒ってる。映画を観て泣いた自分を笑っただろ…と。カップルに名画を語るおっちゃんだが、話の方向性があらぬところへと変わり・・・。
『立体落語』
 マクラでは間が空きすぎて客を不安にさせ、ネタに入ると話がそれて客が路頭に迷うため、未だに二つ目から昇進できない落語家。その噺は昭和40年代テイストが満載で。
『桑畑くんのお宅訪問』
 突然部下の家を訪問する上司。昔、父がとっていた行動を思い出してのことらしいんだけど、それは迷惑ですよ。ちなみに桑畑の子供の名前は椿ちゃん。これってもしや・・・。
『幻の魚』
 うちのじいさんが60歳の頃・・・。幻の魚に挑む釣り名人の話。終演後の挨拶で教えてくれたウラ話では、「ボツネタ候補No.1だったのに、札幌で一番うけた」とは。北海道の風土に合ったネタなのかも。
『日比谷公園デビューライブ』
 バンジョー弾きの娘が日比谷公園デビュー。遠巻きに見つめる友だち。彼女の歌は、受け入れられるのか?
 公演終了後、北海道限定の深夜番組の公開録画インタビューがあり、イッセー尾形の始まりから「お笑いスタ誕」時代、現在に至るまでを、本人の口から聞けたり、「お笑いスタ誕」5週目のネタのさわりが観れたりと、特典満載で大感動!しかも質問までしちゃったので、オンエアされるかも?
 自称イッセーフリークにはたまらない一日でした。とっても!


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劇団四季「ウィキッド」を観る(08.6.14)

 最近ぼくの涙腺がゆるくなっていることは自覚している。だからと言って、決して理由なくうるうるしているのではない。思い起こせば、ひたむきさや切なさがぼくの涙腺をゆるめる傾向にある…と。
 『ウィキッド』は『オズの魔法使い』のアナザーストーリーだ。今風で言うとスピンオフ。哀しいかな歴史も物語も、語り手の主張だけが真実として広まっていく。勝てば官軍だから。でも、物語は登場人物の数だけあるはずで、その一つ一つで善悪も変わるはずなんだ。それをこのミュージカルは上手く表現している。オズの世界ではどうしてよい魔女と悪い魔女がいるのか?ドロシーの三人のお供とは?
 緑色の肌の少女が大学で出会った親友と初恋の相手。そこにオズの魔法使いや大学の先生が絡み、オズの世界で憎まれる悪い魔女ウィキッドが作り上げられる。
 対象的な容姿と生い立ちを持つ同級生の葛藤と友情。正しいことを貫くための勇気、支え合う愛情。その全てがセリフにより、歌により、心のど真ん中に豪速球で投げ込まれる。それを心のミットがいい音鳴らして受け止める。ほら、涙腺がゆるくなった。
 『オズの魔法使い』では悪役に過ぎない西の魔女が後年まるで違う作家の手により、なんとも素敵な女性として生まれ変わる。それこそが素敵!
 ぼくがこれまで観た(数は少ないけど)劇団四季の作品の中では、間違いなく一番。何度でも観たい気分。あっ、でも次ぎ行く前に『オズの魔法使い』を見直しておかなくちゃ。


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「恐竜と隣人のポルカ」を観る(08.6.13)

 幼馴染でお隣さん。そんな熊谷家と戸田家の庭で、恐竜の化石が発掘された。恐竜の化石で狙うは一攫千金か?はたまた知名度アップ大作戦か?遅れをとってはと張り合う両家の争いは、いろんな人たちを巻き込んで・・・。
 寺脇康文と手塚とおるの掛け合いから争いは腹を抱えて笑える。寺脇の正統派に対し、手塚の変幻自在のキャラの応酬はこの作品の見どころ。爽やかさと鬱屈の全面戦争といいましょうか。手塚の幅の広さには脱帽。そして繰り出されたアドリブがこれ。「いつまでも白が似合うと思うなよっ!」場内大爆笑、へこむ寺脇。やるぞ手塚。
 そしてもう一人、作・演出の大王・後藤ひろひとに新境地を見出された(押し付けられた)石野真子。実名での登場なんだけど、「石野真子の謎」がもうひとつのテーマとして物語を盛り上げている。
 しかし、石野真子全面フューチャーは明らかにぼくらの世代。ちなみに大王はぼくの2コ下なんだけど、今人気の舞台や劇団はホントに80年代リスペクトだよなぁ。官九郎なんかモロだし、新感線もそうだし。サブカルチャーが生み出すサブカルチャーと言いましょうか。あれ?こんな言葉前にも書いたなぁ。
 今回の作品は大王の作品の中でもシンプルでストレートなコメディ。それゆえに、どれだけ役者がはじけられるかが見ものだった。寺脇・手塚・竹内都子(ピンクの電話)に何の心配もなかったけど、水野真紀とか石野真子は大丈夫かなぁ・・・なんて心配していたけど、意外と大丈夫だったね。水野真紀は合格点だけど石野真子は満点で。なんて評論家気取りしてみちゃったりして。
 水谷龍二の人情コメディとも、三谷幸喜の都会はコメディとも、松尾スズキや宮藤官九郎の毒のあるコメディとも一味違う、大王・後藤ひろひとのコメディは、ファンタジーあふれるコメディなのです。


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「三谷幸喜のマジックの種」を観る(08.6.13)

 観るって程でもないけれど、PARCO劇場へ行く前に地下の本屋に寄ったらこんな企画をやっていたので、それはまぁ飛びつくでしょう。三谷幸喜ファンとしては。
 かなり狭いスペースに映画『ザ・マジックアワー』のスチールパネルや小道具、セットの模型、衣装などが展示され、「マジックの種」として紹介されている。そして、三谷幸喜の書斎のデスクが奥にど〜んと。この机から数々の原稿が世に送り出されたのかと思うと、感慨深かったりして。
 とはいえ、まだ『ザ・マジックアワー』を観ていないので、意外と冷めていたかな。きっと観た後で「あれがこうなのか・・・」なんて思い起こされるに違いない。
 で、今は書斎に机がないんでしょ?執筆活動は何処で・・・あっ、プロモーションでいっぱいいっぱいか。


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「井上雄彦 最後のマンガ展」を観る(08.6.13)

 凄い。圧倒されまくり。美術館という立体の中に描きつくされたバガボンドの世界。筆圧を通して伝わる井上雄彦の想い。線の一本一本に力があり、観る者にその想いを訴えているかのよう。筆による力強い太線や流れるような跳ね、薄墨の淡さ、クロスハッチや点描の織り成す濃淡、軽快さをもたらす流線。その一本一本が語り掛けてくるかのよう。すげぇ。描かれたものだけでなく、無の空間さえもが冗舌に語り掛けてくる。お手上げだ。
 木々の密なるさまや岩肌の荘厳さ。眼差しの放つ強い光りから着物のかすりの肌ざわりまで。筆やペンにより見事に伝えられる。
 展示内容はバガボンドの1ストーリー。どんな展開かは言えないけど、バガボンド好きにとってはまさに必見!
 「武しゃん」で涙目です。


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「そのまま!競馬予想屋人情喜劇」を観る(08.6.10)

 水谷龍二が競馬予想屋とそれを取り巻く周辺を題材にした人情喜劇。これが面白おかしくハマるのだ。
 舞台は斜陽の地方競馬場。1回200円で馬券予想する予想屋が主人公。東京乾電池のベンガルが主演を張ってるんだけど、これが予想屋にイメージピッタリ。終始赤ら顔で熱弁をふるう様は、「実はやってたろ?」と疑いたくなるばかり。その脇を後輩予想屋役の小宮孝泰と飲み屋のオヤジ役のでんでんが固める。まさに昭和。昭和の喜劇人による昭和を舞台にした・・・いや、現代に取り残され、現代に飲まれそうになった昭和を舞台にした喜劇なのだ。
 予想屋にとっての弟子とは?家族とは?予想とは?それらを笑いのオブラートに包みながら語ってくれる。器用に立ち回る男でなく、不器用ながらも真っ直ぐ生きる予想屋の姿は、いかにも頼もしく、カッコよく見えるのだ。
 昭和テイスト満載の喜劇だけに、ベタな笑いと泣かせどころがあるけれど、これこそがスタンダードな日本の喜劇なんだってところ、しっかりと見せてくれる。面白い。
 いくぶん風呂敷を広げすぎのきらいもあるけれど、喜劇の王道・大団円を迎えてしまうと、些細なことは気にならなくなる。
 藤谷美紀ってすごく細くて背が高くてキレイ。しばらく見かけなかったけど、まぁ、別嬪さんにならはって。今年で35歳ですか。オトナになって魅力倍増です。とかいいながら、山田まりやの超ハイストッキングと短パンの間に見えるナマ腿にニヤっときたりして。だって一番前の席で、ナマ腿のプルプル感がじかで観られるんですぜ!
 たまに見る人情喜劇は心が洗われるのです。


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乾くるみ「リピート」を読む(08.6.4)

 突然かかってきた地震を予告する電話。そして誘われた時間遡行の旅。限定10名、戻るのは290日。今の記憶を残したまま、290日前の自分に戻るというのだ。10月が1月に・・・。
 乾くるみを読むのは『イニシエーション・ラブ』に続いて2作目なんだけど、すごくいい意味で裏切ってくれる。裏切るというよりは、読み手の想像を超えた物語を作っていると言ったほうがいいんだろうなぁ。
 リピート(時間遡行)をした10人が次々と死んでいく。まるで『そして誰もいなくなった』みたいに。犯人は誰?なんのために?
 驚くような結末が待っているんだよな。あまり書けないけど。バレちゃうから。
 なんとも思い切った中途半端な設定だことか。290日でしょ。仮にぼくが今年の1月に戻ったとしても、たいしてやり直したいことないんだよなぁ。めちゃくちゃ忙しかったから、またあのハードさを味わうのはゴメンだし。でも、今の記憶が残っているから、もっと要領よくこなせるか・・・。でもいやだなぁ。株か馬券かロト6くらい。
 こんなに夢のないぼくだから、9月1日になっても地震予告の電話はかかってこないだろうなぁ。まぁ、かかってこられても困りもんだけどさ。
 最後に、この小説面白いです。解説も充実しているので、買いです。


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「アフタースクール」を観る(08.5.24)

 単刀直入に書く。面白いっ!!
 これは北海道のキラ星☆大泉洋が主演を張っているからという贔屓目でも、佐々木蔵之介や堺雅人といった演劇出身の役者が出ているという期待感からでもなく、純粋に脚本がとてつもなく面白いのだ。そして映しかたも。
 母校で教鞭をとる中学教師と、同級生のエリートサラリーマン。そして臨月を迎えるクラスのマドンナ。そこに現れる同級生を名乗る探偵。消えたエリートサラリーマンを捜す探偵と教師。その行く手を遮る組織とは一体?目撃された謎の女の正体は?
 このところ数多くのメディアに大泉洋が出まくってPRしていたけど、映画の内容についてはネタバレに通じるので多くを語っていなかったっけ。「なるほど」と頷ける作品だ。「???」がいっぱいで二転三転する、ジェットコースター・ムービーのような展開と創り。それを派手な動きがあるわけではない、終始落ち着いた画調で観せるんだから、ぼくにはたまらない作品に仕上がっているわけ。コン・ゲームの要素もたっぷりだしね。
 大泉洋と同じく、内容についてはネタバレになっちゃうので書けないけれど、とにかく面白い。いろんなところに張り巡らされた伏線もきっちりとオチをつけてくれるし。ぼくにとって魅力的な出演者が出ていることもあるんだけれど、それ以上に脚本の持つ面白さにKOされちゃった。
 いや〜、お勧め。今年一番のお勧め映画です。


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「49日後・・・」を観る(08.5.14)

 奴らが、また、動き出した!!
 「VAMP SHOW」初演から早くも16年、「鈍獣」からすでに4年、やりたくてたまらない気持ちを抑えきれない二人が企てる、危なすぎる企画!
奇しくもまたもやオリンピックイヤーに、この男たちが始動。
「観たい芝居はオレたちが演る!」
「演りたい台本はオレたちが作る!」
ということで、原案=古田新太&池田成志の新作舞台!

 赤字は今回のお芝居の宣伝文句である。『VAMP SHOW』の初演も二人が出ていたんだ。ぼくは再演(池田成志演出)『鈍獣』は観ているので、結構なフリークだよなぁ。で、今回を含め3作共通のテーマが「ホラー」。決しておどろおどろしく目を背けたくなるようなものではなく、ちょっとサイコホラーっぽいもの。それって難しいよなぁ。重いとかグロテスクに偏っちゃいそうで。でも、巧いこと笑いを織り込んで、楽しめるお芝居になっているのよ。松尾スズキ作品に通じるところもありかな。
 老婆が頚動脈を切って自殺した、血にまみれたゴミ屋敷に集まった葬儀社の女と掃除屋4人。本来の清掃業務に「権利書と実印」探しが追加され、大忙しのはずなのに、作業は遅々として一向に進まない。それどころか、横道にそれてばかりで・・・。この家に隠された謎が明らかになる・・・のか?
 まずはゲストが豪華なこと。八嶋智人、松重豊、小田茜。テレビや映画でも活躍する人たちを連れてくるなんて。そんで、絶妙の使い方をしている。なんだろう。緩急のつけ方が絶妙なのだ。八嶋・小田が直球で攻め立てるのに対し、古田・池田・松重が乗ったりかわしたり、自在に緩急をつけるのだ。そこがホラーにして偏重せず、楽しく観られる秘訣なんだろう。巧い・・・。特に古田&池田は息もピッタリで、観ていて安心感すら覚えてくる。ホラーなのに。で、次への展開が妙なので、観ていてたまらない。
 池田成志が演出を兼ねていたので、彼の出番が少なめだったのは残念だったけど、彼の魅力は詰りまくっていてよかった。そして古田新太。もはや日本演劇界を代表する男優だよなぁ。ポケットがたくさんあって、なにが飛び出してくるかわからん。笑いも取れるし艶男もできて、立ち回りなんかもバシッと決める。すっげー男だよ。
 それよりも感動なのは、このメンツのお芝居が札幌に来たってことだよな。うれしくって、うれしくて。セット、かなり大掛かりだったけど、海を渡って運ぶの大変だったろうなぁ。これで札幌公演が1回のみなんて・・・もったいない。
 面白い芝居を観させてもらった。PARCOプロデュースの札幌公演は7月に『ウーマン・イン・ブラック〜黒い服の女〜』が控えているけど、もっとたくさん札幌でやってください。お願いっ!


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小路幸也「東京バンドワゴン」を読む(08.5.10)

 東京下町の古本屋・東京バンドワゴン。4世代9人(後に10人)が同居し、にぎやかなることこの上なし。それも、代々伝わる家訓にしたがって皆が行動するため。そんな大家族のもとに、春夏秋冬風変わりな事件が舞い込んでくる。でもそれは、連続猟奇殺人事件とか、どこぞのお殿様の埋蔵金なんて大それたものではなく、日常生活の延長上にある謎ってところで。
 巻末に「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ」という言葉がある。この作品はまさにあの頃のドラマのようなのだ。どっしりと構える大黒柱がいて、Loveを語る放浪の伝説のロッカーがいて、訳ありながらも仲の良い3姉弟とお嫁さん、それぞれの子供。それを見守る語り手。時には大喧嘩もあるけれど、芯の部分でしっかりとつながっている大家族。そこに近所の幼馴染やら常連さんが絡み、夜にはキレイなおかみさんのいる行きつけの小料理屋が控えている。あの頃のドラマを見ていたぼくには、垂涎ものなのだ。
 くどくど書いても意味がない。面白いの一言。こうなると、ドラマ化したときの配役が気になってしまう。で、勝手に妄想するんだねぇ。Loveを語る伝説のロッカーは間違いなく内田裕也なんだよね。
 読んでみてちょうだいな。


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「ノーカントリー」を観る(08.5.9)

 コーエン兄弟がアカデミー賞最優秀監督賞を受賞した。コーエン兄弟好きのぼくとしてはとても嬉しい。そして、コーエン兄弟の『ノーカントリー』がアカデミー賞最優秀作品賞を受賞した。えっ?
 ぼくがコーエン兄弟作品の大好きなところは、独特のユーモアが満載なところ。でも、少なくともそれはアカデミー賞に受け入れられるものではない。なのに作品賞?作風を大きく変えて勝負に出たのか?
 勝負には出ていたのね。びっくり。グラミー賞まで受賞するほどのセンスのよい音楽を封印し、軽妙な言葉のやり取りを極力減らし。でも、ユーモアは人間描写と風刺に形を変えてしっかりと残されていた。
 保安官が感じた個人や社会に対しての不安が、主題となる追跡劇に詰まっている。現代社会の持つ様々な問題。追う者、追われる者が自分の強い信念のもとに動いているのだが、どの信念もおおよそ社会とは馴染まないものばかり。その連鎖こそが現代社会の病巣なんだろうなぁ。その連鎖をコーエン兄弟特有のセンスで描いたのがすごいところ。
 ただ、コーエン兄弟作品に共通する爽快感が今作には観られないのが残念なところ。心から笑える作品が恋しくなっちゃった。
 きっと日本人だけなんだろうけど、トミー・リー・ジョーンズがエキストラから主演俳優に昇進したんだ・・・なんてところでは、めちゃくちゃ笑えます。彼があのCMに出ていることがイレギュラーなんだけどさ。
 アカデミー賞というタイトルを手にしたんだから、次はまたいつもの軽快な面白さをお願いします、コーエン兄弟!


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「少林少女」を観る(08.4.28)

 『少林少女』の魅力とは?
@かわいい女の子がいっぱい出ている
 主人公・凛を演じる柴咲コウはもちろんのこと、眠眠役のキティ・チャン、台詞は少ないけどラクロス部の主将・山崎真実。他にもいっぱい。彼女たちの躍動する姿は清々しくてかわいいです。
A『BE-BOP』vs『湘爆』、夢の対決
 ぼくの若かりし頃、若者を熱狂させた2大不良系マンガが『ビーバップ・ハイスクール』と『湘南爆走族』。その実写版でそれぞれ主人公を演じた仲村トオルと江口洋介が、20年以上の時を経て直接対決するなんて。涙モノ。ちなみにぼくは湘爆派です。
B『少林サッカー』『カンフーハッスル』の世界がここに
 チャウ・シンチーをエグゼクティブプロデューサーに迎え、2大傑作の世界観をたっぷりと。名脇役、ティン・カイマンとラム・チーチョンも出演し、いい味出してます。負けじと岡村も・・・。
Cいろんな映画のオマージュが盛りだくさん
 あんな映画やこんな映画の心に残るあのシーンが・・・。もちろん、本広作品でお馴染みのあれやこれやも入ってます。
 少林を題材に、やりたいことをやった映画ってとこですか。単純に観ていて面白い。ジャンル的には『キル・ビル』に似てるかな。好きなことやってるって意味では。
 たださ、STORYがどうにもこうにも。張り巡らした伏線もおざなりだし。『少林サッカー』や『カンフーハッスル』にも及ばない。どうしちゃったの?本広さん。
 ってことで、STORYを気にせずに、画像を楽しむ映画かな。見どころはあるし、ぼくにとっては。


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押尾コータロー コンサートツアー2008
"Nature Spirit"を観る(08.4.24)

 こんな感じでギター弾けたら、どんなに楽しいんだろうか。ギターを持つ時間が待ち遠しくてたまらないんだろうなぁ。一人なのに一人を感じないような。
 押尾コータロー、ナマで観たいと切望していたギタリストのライブを、念願かなって観ることができた。「すげぇ〜」としか言いようがない演奏だった。舞台上には彼一人。じっくり聴かせる曲もあり、脇をバックバンドが固めているかのようなFUNKYな曲もあり。ぶっちゃけどれもが初めて耳にする曲なんだけど、すぐに曲に夢中になれる。あまりのテクにあっけにとられる場面もしばしなんだけど、それもまた心地良い。
 一人なのに一人を感じさせない演奏って、なんかジェイク・シマブクロみたいだなぁ・・・なんて思ってたら、MCで彼との接点について語ってくれて、とても楽しかった。二人のジョイント、ぜひ観たい。
 いやぁ、これは癖になりそうだよ。


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川上弘美「古道具 中野商店」を読む(08.4.23)

「古いもんこそ清潔に。でも清潔すぎちゃだめ」
 中野商店の店主、中野さんが古道具に対して言う言葉である。古道具屋(決して骨董屋ではない)を舞台としたこの物語の核をなす言葉だと思う。古道具屋の日常を描いているようでいて、この物語は愛を説いている物語である。若者たちの愛、熟年の愛。
「愛はきっと奪うでも与えるでもなくて、気が付けばそこにあるもの」
 これはMr.Chirdren『名もなき詩』の一説である。『古道具屋 中野商店』を読んでいるとき、そのフレーズだけがず〜っと心のターンテーブルを回り続けていた。ヒトミさんとタケオの関係、中野さんとさき子さんの関係、マサヨさんと丸山さんの関係。なにが正しくて、なにが間違っているのかはわからない。そんなのは自分たちで決めればいいこと。でも、一般人のぼくから見て人目をはばからねばならなさそうな愛こそ物語の中では当事者により雄弁に語られ、まっとうに見える愛ほどひた隠しにされているところに、年季の差が見えて面白かったりする。本人たちは愛と認めていないからかもしれないが。
 恋愛小説ではないけれど、愛について思わず考えてしまう、そんな小説でした。


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DEPAPEPE 春のワンマンライブツアー2008
"HOP! SKIP!! JUMP!!!"を観る(08.4.19)

 暖かい春の陽射しが降り注ぐ今日の札幌。Tシャツルックでも気持ちのよい土曜日に、ベストマッチのDEPAPEPEの音色を堪能してきたのだ。彼らが春を連れてきたんじゃないかというくらい、ホントぴったりのタイミング。そのあまりの心地良さに、うっとりしっぱなしなんです。
 なんだろう、まさにDEPAPEPE、これぞDEPAPEPEって感じなの。彼らのLIVEは初めてなので、「どんなん?」って思ってたけど、まんまDEPAPEPE。二人が奏でる音色も、バンドスタイルで聴かせる演奏も、ゆる〜い感じのMCも、みんなそのままDEPAPEPEで。なんて安心していたら、とってもFUNKYな一面も見せてくれちゃって。おしゃれ〜〜〜。
 DEPAPEPEの二人って、なんか漫才コンビ(松竹芸能所属)のアメリカザリガニみたいだよなぁ。二人のキャラといい、風貌といい、声質といい。ファンが聞いたら怒るかもしれないけれど。
 ボソッと言った「エレキ弾きたい」は反則です。
 なにはともあれ、彼らのテクニックと爽快さに包まれたライブ、春の訪れを満喫できた素敵なひとときでした。


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森見登美彦「四畳半神話大系」を読む(08.4.12)

 なんだ、このタイトル。なんか松本零士の『男おいどん』を連想してしまうような。しかも、ボロアパートの一室、男汁の染み込んだ四畳半でしょ。そりゃ住んでる住民はランニングシャツ着てるって思うでしょ。その発想がどっぷり昭和のぼくなんだけどさ。
 主人公のネガティブ思考は『男おいどん』に通じるものがあるかな。でも、彼は決して一人ではない。小津という悪友が拒もうとも彼に付いている。いや、憑いていると言ったほうがいいのかもしれない。
 大学3回生になり、これまでの不毛な2年を取り戻そうと、分岐点となったであろう入学時を思い出す。手には4枚のサークル勧誘チラシ。あの時選ぶサークルを間違えてさえいなければ、「薔薇色のキャンパスライフ」が手に入れられたかも・・・。
 四話からなるこの物語は、彼の決断の差により得られる2年間と、彼がこれから進むであろう道を描いている。だから毎回が3回生の春なのだ。入学時の選択が彼に与えた影響とは?
 主人公の気持ちはよくわかる。ぼくもよく思うもん。「薔薇色のキャンパスライフ」って何?ぼくは確実に逃しているぞってことで。その時々の決断がその後の人生を変える。何を選ぶのかは個人の意思なんだ。なんてことをテーマにしながらも、確実に運命的なものに操られているのが、この作品のひとつの楽しみかな。小津との仲は運命以外のナニモノでもないでしょう。それ以上はここでは書けないけど。
 不毛な2年間を取り戻すパラレルワールド。その仕掛けが面白い作品でした。


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バナナマン傑作選ライブ "bananaman Kick"を観る(08.3.30)

 週末の東京は花見日和の春の陽気だったとか。春が遅い札幌では、春を飛び越えて熱気を帯びたバナナ日和だったのだ。
 結成15周年を迎えたバナナマン。2年振りとなる札幌公演はチケットSold Outの大人気ぶり。バラエティ番組での露出が増え、「深夜のお笑い」と評されていた2人もすっかり茶の間の人気者。でも、彼らの本当の面白さはバラエティ番組で観せるリアクションやショートコンとではなく、しっかりと作りこんだ長い時間のコントなのだ。それはライブでしか楽しめないものなのだ(DVDもあるけど・・・)。
 で、二人のコントなのである。それはもう、腹を抱えていないといられないってくらいの、のっけから全開で飛ばしまくった面白さ。二人の信頼が織り成す掛け合いと間。コント師と言われる所以がここにある。テレビでは観ることのできない面白さがここにある。
『宮沢さんとメシ』
 友人から「今晩一緒に食事をしないか?」と誘われ、一度は断ったものの、「宮沢りえと一緒」との言葉に俄然盛り上がり・・・。日村のテンションに注目なのです。
『ルスデン』
 同僚と飲んで帰ってくると、留守電が38件も入っている。友人・設楽からなのだが、一件ごとに設楽の置かれている状況が変わっていき、最後には・・・。ステージ上にはほぼ日村一人のみ。その都度変わる設楽の声と日村の態度が笑えます。
『a scary story』
 こわい話が巧くできない男・設楽。日村を何とか怖がらせようとするが、日村に怒られてばかりで・・・。設楽のボケが炸裂です。
『puke』
 酔って設楽の家に泊まることになった日村。設楽がシャワーを浴びている間に部屋でゲロを吐いてしまう。誤魔化すことはできるのか?日村の壮絶な闘いが始まる。最後には感動すら覚えてしまう大作です。
『Fraud in Phuket』
 10年振りに想い出の地・プーケットを訪れた夫婦。しかし、旅行先でも仕事優先の夫に業を煮やした妻が、あらぬ行動に出て・・・。2人が二役づつをこなし、入れ替わり立ち替わりのドタバタコント。現実的(?)な夫婦とありえない二人。笑って笑って、ホッとさせられるコントです。
おまけ『赤えんぴつ』
 コントライブおなじみのフォークデュオ。今日は特別に2曲披露。いつもは1曲なんだけど、札幌だけ特別なんだって。
 すべてのネタが終わり、カーテンコールに登場した二人を待ち受けていたのは・・・15周年を祝うハプニング。これもきっと札幌だけだよね。設楽&日村に加え、作家オークラもステージ上で照れ笑い。すごくアットホームで、心からの拍手が送れたよ。
 札幌にいたら、なかなかナマでライブを観ることができない。もっといろんな人に来て欲しいものだ。バナナマンにはぜひ毎年。
 昨日の小林賢太郎といい、今日のバナナマンといい、至福の時間を味わうことができた週末だった。二日連続はもったいないくらい。
 バナナマン最高っ!


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小林賢太郎ソロ公演 ポツネン2008”ドロップ”を観る(08.3.29)

 小林賢太郎が関与している公演を観るのはこれが3度目。最初に観たKKPでは芸達者という印象が、次に観たラーメンズでは構成の巧みさが際立っていた。そして今回はソロ公演。いや〜、すごかった。これまではラーメンズへの嫉妬(?)で色眼鏡で観ていた部分があったけど、色眼鏡すらクリアに透き通って観せる凄まじさだった。
 とにもかくにもすごく面白かった。小林賢太郎の才能が詰まった公演とでも言おうか。落語テイストに始まり、言葉遊び、音や映像を駆使した笑いを存分に観せてくれる。あまりの幅の広さにただただ感服なのだ。
 ドロップの缶、江戸っ子の魔法使い、変に口の回る毛虫、ぼっちゃん、ちくわマン・・・。これらがキーポイントとなって、多種多彩なネタを繋いでいく。ネタ創りの才もさることながら、意味もないところで観せるしたり顔など、間のとり方も巧く、ついバカ笑いしてしまう。客層は若い女性が多かったけど(8割くらい)、KKPに観られた彼女達狙い撃ちもなく、ラーメンズ公演同様に普遍的な笑いがそこにあり、そこを目指す姿勢がとても頼もしいのだ。
 映像とのコラボ作品はまるで『トム&ジェリー』の真ん中の試験的アニメ(『トム&ジェリー』は30分で本編2本と試験的アニメ1本が放送されていた)みたいなテイストがプンプンで、サイレントによる動きや光と影の使い方なんか、懐かしさと面白さがこみ上げてきて涙モノ。
 これまで色眼鏡で見てごめんなさい。すごく、すごく面白かった。また札幌で公演があるときは、ぜひとも観に行きます。
 笑った〜〜〜。


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西加奈子「さくら」を読む(08.3.29)

 読書って、読んでいるときの精神状態によって印象が大きく変るものなんだな。わりかし余裕のあるときに読み始め、とんでもないハードワークのときに佳境を迎え、一段落して読み終えたもんだから、この小説の印象にすごく波があって。それはこちら側の事情なんだろうけど・・・いや、この作品の特徴でもあるのかな。
 幸せな家族の離散と再生を描いた物語。あまりに幸せすぎたために、歯車がひとつ狂ったときに微妙な狂いに気づかずに、大きく狂ってしまったのかなぁ。当然そこには目に見えない力も働いてはいるんだけど、微妙な狂いを誰かが口にできていたら、こんなにはならなかったんだろうなぁ・・・なんて思えちゃって。幸せそうに見えて、その気分だけに浸っていたのかなって。当然ながらぼくにそんなこと言う権利もなく、ただの読み手なんだけど。【←超ハードワーク時に読んでいた】
 だから大晦日の暴走はとても眩さを感じながら読んでいた。涙と鼻水にまみれたって、もう一度「始める」ために必要な、これまでこの家族にかけていたことが、軽の狭い車内に詰まっていたから。【←一段落後に読んだ】
 そもそもそれが狙いの作品なんだろうけど、ぼくの精神的ギャップも手伝って、色濃く出たんだよね。
 それにしても、最近の若者の性といったら・・・。うらやましいぞ・・・ちがうか。


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「okuda tamio FANTASTIC TOUR 08」を観る(08.3.21)

 札幌に帰ってから丸3年。3度の年明けを迎えたんだけど、3度ともに一発目のLIVE鑑賞が民生絡みなのだ。'00年と'02年も一発目は民生。これはあくまで偶然なんだけど、いかにぼくの生活と民生の音楽が密接な関係にあるかなんて、感慨深く思ったりなんかして。
 そんな今年一発目のLIVE、気合入れてドカンと行こうと思ったのに・・・、1時間の遅刻。どうしようもなかったんだ。出張先から時間通り帰ってこれなかったんだ。
 係の女性に先導されて会場内に入ると、もう熱気でいっぱい。そりゃそうだ。民生が1時間も歌ってたんだもん。
 遅れを取り戻すべく、ぼくもがんばったさ。寝不足と疲労でグデグデの身体にムチを打って、飛んで跳ねて叫んださ。民生は持ち歌を披露することでそれを心地良くサポートしてくれる。だからぼくからもすぐに熱気があふれたのさ。いつもどおりの普段着で飾らないステージが、大きく手を広げて迎えてくれるんだもん。
 新譜『FANTASTIC OT9』の楽曲に加え、懐かしいあれやこれやが気分を高揚させてくれる。個人的には本編ラストの『トロフィー』に感極まって。
 アンコールは王道をぶっ放して、場内割れんばかりの大合唱。これがなくては、1年が始まらないって感じになってきたのよ。
 次また民生を観るときは、体調とスケジュールをバッチリ整えて、万全の体制で大合唱しちゃるもんね。


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「バンテージ・ポイント」を観る(08.3.8)

 何度も繰り返される12:00:00pm。合衆国大統領暗殺を目撃した人々の視点で、ループする時間軸。そして、少しづつ姿を現す真相。これはハマる。めっちゃ面白い。
 スペインのとある広場で、首脳会議開催前のセレモニーに出席した合衆国大統領に、2発の銃弾が打ち込まれ、謎の爆発が次々と起こる。混乱する観衆の中で、現場に居合わせたSP、地元警察、TVディレクター、観光客、テロリスト、大統領。彼らが目撃した真実とはなんなのか。
 巻き戻し再生で作られる物語といえば、ぼくの中では『木更津キャッツアイ』なんだけど、『バンテージ・ポイント』はその回数がなんとも多い。人の数だけ人生があり、その人生の中では誰もが主人公なんだけど、1本の映画でそれを描ききるなんて、お見事としか言いようがない。それぞれの人々が暗殺事件にどのように関わり、何を思うのか。犯人は誰なのか。設定としては40分くらいの出来事なんだろうけど、その40分に詰まっている想いの密度の濃さに圧倒されてしまう。
 SP・バーンズだけの視点でも事件を伝えること、映画としての物語を創ることは可能だったろうけど、そうなると映画全体のスピード感が失われるんだろうなぁ。この映画にとってスピード感は、とてつもない武器になっているもん。スピードを上げることによって損なわれてしまいそうな重厚さは、リピートによってお釣りがくるほど補われている。すごく巧みな構成なのだ。こんなやり方があったのか・・・と、感嘆の声を上げちまったよ。
 バーンズの勇猛果敢ぶりに歓喜する一方、テロリストにとっての命の重み(価値勘)に考えさせられたりして。
 ぼくらがいつも読み流してしまう新聞の三面記事にも、もしかしたらものすごく濃い想いが詰まっているのかもしれないなぁ。
 これは何回も観たくなる映画だよ。


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五十嵐貴久「TVJ」を読む(08.3.7)

 五十嵐貴久の小説、結構読んでいる。すっかりファンの領域に入っているかもしれない。でも、今作『TVJ』は購入をちょっと躊躇した作品だ。何がって、文庫本の表紙。表紙買い、帯買い常習のぼくとしては、あまりにも意欲をそがれるカバーデザインなのだ。
 「いきなり悪評かよ」と早合点しないで欲しい。中身はものすごく面白いのだ。お台場に完成したツインタワービルの片側、テレビジャパンがテロリストに乗っ取られた。アナウンサーを含む社員15人を人質に取る犯人達。到着した警察との交渉は公開生中継。なにからなにまで前代未聞のテロ事件に立ちはだかったのは、経理部のOLだった。
 五十嵐貴久は創作にあたって、映画をモチーフにすることが多い。『大脱走』や『STING』なんかがこれまでに用いられているが、今回はズバリ『ダイ・ハード』。幸せがかかった女の底力が存分に発揮される。
 OL・由紀子、テロリストのリーダー・少佐、交渉人・大島警視正。この三つ巴がなんとも面白い。それぞれのキャラクターに感情移入できてしまう。目まぐるしい場面展開にも、3本の軸がしっかりしているので、すんなり読めてしまう。
 そんなに面白いのに・・・何故あの表紙なんだかな。表紙を気にせず読んでください。


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東京ヴォードヴィルショー「エキストラ」を観る(08.3.1)

 三谷幸喜作・演出で、2006年に公演された東京ヴォードヴィルショーの『エキストラ』が札幌で上演される。東京ヴォードヴィルショーの座長・佐藤B作はかつてのインタビューでこんなことを言っていた。
「劇団は東京公演をやって収支はトントン。東京公演が好評を博し、地方に呼ばれるようになったら、おいしい思いができる。」
 今回の再演は全国くまなく回っているみたいだから、おいしい思いができているのかな。
 ドラマ撮影のエキストラと製作スタッフたちの織り成す群像劇。業界ネタなんだけど、三谷幸喜がよく使う、「人生で起こることは、すべて、○○でも起こる」の舞台裏ヴァージョンといったところ。「皿の上」だと『王様のレストラン』、「舞台下」だと『オケピ!』などなど。
 初演の舞台をWOWOWで観たので、STORYなどはすべて知っていた。でも、何度観ても面白いのがいいお芝居の証といいましょうか。今回の注目はCASTの変更。主役格3人のうち、2人が変更となっていた。新入り役が伊東四朗から綾田俊樹に、先生役が角野卓造からたかお鷹に。田所寛太は佐藤B作のままだけど。他にも新人マネージャーや達人、姐さん、セカンドADなんかにも変更が。でも、すべてがしっくりきていた。初演はとにかく伊東四朗のインパクトが大きくて。彼のたたずまいだけで笑えたもん。でも、替わった綾田俊樹は自然体。普通に定年を迎えた地下鉄職員の感じがする。圧倒的な華がなくなった分、自然体の面白さが増したような。その他については、違和感なくハマっていたような。
 エキストラ初日の新入りの戸惑い、エキストラ暦半年の先生の主張、エキストラから役者になった田所寛太の悲哀など、スタッフにはセットとしてしか扱われない彼らの個々の想いが詰まっている。喜劇なんだけど、人情劇。大いに笑って、ホロリとさせられちゃう。
 ただ1点、初演時から思ってた引っかかる点が、先生の主張。決して間違ってはいないし、人としては正しいと思う点もあるけど、先生が主張できる立場にあるのかなって。スタッフから認められるエキストラになってから主張するのが筋なんじゃないかなって思っちゃった。そこが職人系サラリーマンのぼくと元教師との感覚の差なのかな。三谷幸喜のことだから、そんな職業温度差まで計算して書いているのかな・・・。
 三谷幸喜作品が札幌で観れるなんて、うれしいなぁ。もっと札幌に来てくださいよ〜。


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作・網本将也、画・ツジモト「GIANT KILLING@〜C」を読む(08.2.29)

 Jリーグ開幕まであと1週間。札幌オヤジとしてはJ1でのコンサの闘いを早く観たくて待ちきれない・・・。この高揚した気持ちをサッカーで満たしたいと思い、『GIANT KILLING』を読むことに。『U-31』の原作者・網本将也が今度は監督を主人公にしたサッカー漫画を手がけているということで、買っちゃった。
 『U-31』ではピークを過ぎたといわれるかつてのスター選手が輝きを取り戻すまでの物語だった。当然選手目線で物語は進行するんだけど、ときおり物語(試合)を俯瞰した視点で描くのが斬新だった。
 先にも書いたが、『GIANT KILLING』はこの10年で2部落ちを経験し、低迷し続けるETU(EAST TOKYO UNITED)の監督に就任した元スター選手が主人公。いやさ、似てるじゃない。2部落ちを経験し、低迷を続けるチームっていうのに、コンサドーレ札幌が。しかもETUのユニフォーム、赤黒だよ。まんまコンサだよ(ACミランと言った方が正解なんだろうけど)。コンサを重ねて読んじゃうでしょ。しかも、選手が主役のサッカー漫画と違って、ピッチの外からサッカーを俯瞰して描いているので、視点がぼくら(サポーター)にも受け容れ易いというか。まるで『サカつく』やってる気分で読めたりして。
 有能だけどチキンの若手、10年間ETUを支えてきた大黒柱、ベテランの意地、若手の台頭・・・。選手個人の問題やチーム内のゴタゴタ。チームが抱える問題は数多くあるけれど、チームを強くするために監督がすべきこととはなにか。勝つためにやらなければならないことは何か。中間管理職にも通じる物語になっている。
 これからの監督・達海猛の動向からは目が離せないです。でも、彼ってS級ライセンス持っているのかな・・・。
 『GIANT KILLING』同様、『U-31』も傑作なので、サッカーが好きな方はぜひ読んでみてください。サッカーに対するモチベーションを高めて、今シーズンに臨みましょう。


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「俺たちフィギアスケーター」を観る(08.2.24)

 2004年の『スキージャンプ・ペア』、2006年の『シムソンズ』(カーリング)、2008年の『俺たちフィギアスケーター』。どうやらぼくには隔年でウィンタースポーツ・ブームが訪れるらしい。どれも純粋なスポーツ観戦ではないけれど。
 それにしても、『俺たちフィギアスケーター』は物凄い。あまりにもお馬鹿すぎて、スケート連盟から苦情が殺到するのではないかと心配してしまうくらい。お馬鹿すぎて面白いのだ。
 フィギアスケートのために英才教育を受け続けたなよなよした男と、荒れた生活の中から独自でフィギアスケートを身につけた男。その演技も「可憐」「ワイルド」と好対照の二人が、世界大会の表彰台の上で乱闘を起こし、追放されることに。でも、彼らは復帰のために史上初の男性ペアとして手を組むことになる。犬猿の二人が無事復帰することはできるのか?
 とにかく滅茶苦茶。冒頭、ソロ時代の二人の演技にまずは笑わされる。現実的には採点すらされないようなレベルなんだけど、「可憐」「ワイルド」の対立がストレートに表現されていて、たまらなく面白い。手を組んだ後もペア内の葛藤あり、ライバルとの新たな対立もあり。問題山積、前途多難なんだけど、すべてが笑い飛ばせるんだな。
 ホントお馬鹿物語なんだけど、笑いだけじゃなく友情や恋のエッセンスも加味されていて、これがなかなか馬鹿にできない。稀に見る完成度の高いお馬鹿映画なのだ。
 笑えます!


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荻原浩「母恋旅烏」を読む(08.2.24)

 元・旅回りの大衆演劇一座家族の再生(?)の物語。一座をたたみ、レンタル家族なるものを営む、菱沼一家。花菱清太郎一座の座長として名を馳せた父、良妻賢母の母、かなりニートの長男、ヤンママ・メタルクィーンの長女、いろんな意味でマイペースな(書き方が難しいので)次男、純真無垢な長女の娘。かつての栄光を引きずり、現実と向き合えない父。大衆演劇一座に生まれ育つがゆえの苦労やコンプレックスから、父と対立する子供達。レンタル家族として営業(演技)しているときが一番家族らしいという一家。
 ぼくの持つ大衆演劇一座に対するイメージって、「時代遅れ」って感じかな。ぼくは大衆演劇を観たことがないので、勝手な思い込みであることは間違いない。でも、そう思っているのはぼくだけじゃないと思う。多くの人(特に若い人)は同じイメージを持っているのではないか。この小説はそこを逆手にとっている。ぼくらの持つイメージが長男や長女のコンプレックスになっているのだ。だから、大衆演劇を知らなくても、長男・長女に感情移入ができてしまう。お見事。
 そんな長男・長女が一家を離れていくんだけど、自分たちの道を歩むことで培ってきた素養に、身体に流れる大衆演劇の血に気が付いていくんだな。突飛だけど清々しく笑える物語。カギを握る母さんも、彼らの自立により心が動かされたんだろうなぁ。
 次男・寛二が物語のメインの語り手となる。ちょっとずるいと思うけど、寛二の成長イコール家族の成熟度につながっているところもあり、ずるうまといったところかな。
 目の付け所と浪花節だよ、人生は・・・なんて思ったりして。面白かった。


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ユーミンソング・ミュージカル「ガールフレンド」を観る(08.2.8)

 ユーミンの曲だけで綴るミュージカル、『ガールフレンド』。ぼくはてっきり、ユーミンの詩の断片のみが台詞となっている芝居(ミュージカル)だと思って観に行ったんだけど、さにあらず。まさにユーミンソングスのみで、まんま1曲1曲で物語が構成されたミュージカルなのだ。
 出演者は鈴木蘭々と島谷ひとみに、男優二人とアンサンブルの女性4人。その中で声を発するのは鈴木蘭々と島谷ひとみのみで、それもユーミンソングを歌うだけ。それだけなのに、同級生4人の恋と別れと結婚と・・・などなどが描かれるのだ。
 なにがすごいって、時代もシチュエーションも違うユーミンソングが物語を紡ぎ出しちゃうんだよ。ユーミンだってそんなこと考えて作詞作曲してないでしょ、きっと。
 ユーミンの時代にあわせた曲調の変化も、ただただ縦軸に捉えるだけでなく、並行させることにより2人の女性の人格が描けるとか、発見の連続。さすがは馬場康夫。ぼくらバブル世代にとっては、文化のオピニオン・リーダーなんだよね、ホイチョイって。
 個人的には『あなたは陽気な学校一の遊び人♪』で始まる物語の別れのシーンは『あなたは素敵な Down Town Boy 不良のふりしている 気まずいことがおこっても 私をあきらめないでね♪』なんだけど、そんなベタはさすがにしなかったね。でも、『Down Town Boy』も聴きたかったな。大好きなんだよ、あの曲が。
 鈴木蘭々の眼鏡顔、かわいかった。個人的には彼女が眼鏡を外さないとその魅力に気が付かないような男は、最初っからダメになるんだよ、心が見えてないんだもん・・・なんてね。
 主役の二人はダブルキャストで、北海道で観れるのは鈴木蘭々と島谷ひとみだけなんだけど、堀内敬子さんもやっているそうな。堀内敬子の眼鏡顔、観てぇ〜っ!
 とにかくユーミンソングの美しさと、ミュージカル構成の発想の素晴らしさにやられっぱなしでした。ユーミンソングはまだまだあるから、別のバージョンも観てみたい!


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手嶋龍一「ウルトラ・ダラー」を読む(08.2.7)

 インテリジェンス小説と聞いて、「賢い小説なんだ」と思ってしまった。ここでいう『インテリジェンス』とは、情報・諜報・機密の類のこと。それを操るんだから、確かに賢い小説ではあるんだけど。
 それにしてもすごい小説だった。史実(二・二六事件や太平洋戦争)や風化した事件(三億円事件とか)をフィクションにしたものは数多くあるけれど、『ウルトラ・ダラー』の舞台はまさに現代の昨日今日の世界で、ここ数年に起きたあれやこれやが当たり前のように物語に絡んでくる。この物語こそが事の真相であるが如く。これは本当に勘違いする人が多々でてくるのではないか?実はこれこそが真実なのか?
 主人公のスティーブンはBBCラジオの日本特派員であるが、実はイギリスの諜報部員でもある。いいとこのボンで流暢な日本語を操る。どこにでも容易く溶け込むその姿は、スマートなジェームス・ボンドといったところか。アメリカの、日本の、北朝鮮の、ウクライナの、フランスの・・・各国のインテリジェンスが彼を経由して、暗躍する精巧な偽札ウルトラ・ダラーの核心に迫っていく。ホントにこれがフィクションなのか?
 ウルトラ・ダラーに関わる人々の素性が綿密に書き込まれ、事件の背景が構成されていく。そのひとつひとつが面白く、新たなエピソードが出るたびに期待感がいっぱい。しかし、全体を裏付けるエピソードが収束しないのが難点かな。見事なまでに骨格を形成するものの、発散する一方なの。レポートとしてはありなのかもしれないけれど、小説としては「大風呂敷を広げたはいいけれど・・・」って感じでもったいない。そんな空気が最後まで続くのが残念。まぁ、現実の世界同様、インテリジェンスの真相は闇の中ってことなんでしょうね。


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「陰日向に咲く」を観る(08.1.30)

 劇団ひとりの処女作にしてベストセラー、『陰日向に咲く』。ホントは小説を先に読みたかったんだけど、文庫本になってくれないんだもん。でも、映画が先で良かったかも。だって、小説を先に読むと、登場人物全員劇団ひとりが演じるキャラに思えてきそうだもん。それはちょっとね。
 正直やられた。同時多発的なエピソード(登場人物)がことごとくひとつのサークルでつながるあたりはやりすぎじゃないかなんて思った。無理にサークルでつなげる必要はないんじゃないのって。それぞれのエピソードが力強いから。それぞれのエピソードが涙腺を緩めてくれるから。
 しかし何故だろう。どれもジンとくるんだけれど、ホントよりもホラの方が泣けてくる。偽りとわかっていながらも通じ合う心にボロ泣きさせられる。こんなに素直に涙がこぼれたのは久しぶり。これが泣き芸を得意とする劇団ひとりの真骨頂なのか。
 チキンのぼくとしては、オレオレ詐欺を仕掛ける時の岡田くんの演技には共感持ちまくり。
 人と人のサークルがそれぞれに足りない部分を補い合うものであるならば、素敵な奇跡が起こるかもしれない。そんな心温まる作品だった。
 泣けますっ!


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「スウィーニー・トッド」を観る(08.1.23)

 ティム・バートンとジョニー・デップのコンビ。ゴールデングローブ賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネート。ものすごい前評判と積極的なプロモートで、「早く観に行かなくちゃ」って思ったのよ、『スウィーニー・トッド』。我がライバル(勝手に言ってるだけだけど)、ジョニー・デップの歌声とやらも聴いてみたいじゃない。
 「救い」のない物語とは、まさにこの作品のことなんだろうな。「哀しみ」の連鎖に歯止めをかけるのは誰?
 そんな連鎖を彩る(・・・でいいのか?)ミュージカル仕立ての楽曲の数々。登場人物の持つ痛みを見事に表現していて、聴き応えありです。すれ違う心が、相反する気持ちがひとつのメロディにのり、同じ言葉で歌われる妙。
 彩るといえば、ティム・バートンの色彩感覚は素晴らしいなぁ。冬のロンドン、鉛色の雲が光を遮る薄青いトーン。避暑地の海に降り注ぐ燦々たる陽射しの鮮やかさ。現実と空想のメリハリが色で表現されるなんて、さすがだよ。
 毒のある『大人の童話』なのかな。グリム童話もひどくホラーな話だっていうじゃない。ティム・バートンが綴った大人の童話。パックリの連続で目を覆いたくなる場面も多いけど、流れる血の量だけ人の業が深まっていくような・・・そんな作品です。


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上橋菜穂子「夢の守り人」を読む(08.1.20)

 守り人シリーズも第三弾。今回のバルサの活躍はいかに・・・って入りでいこうと思ったら、今回はバルサちょっと控えめで。文庫本を購入したら、書店でカバーをかけてもらい、カバーを外すことは滅多に無いもんで、いま右の画像を見て気付いたんだけど、表紙のイラストでバルサ控えめは表現されていたんだね。タンダってこんなヒゲ生えているんだ・・・。ぼくのイメージとちょっと違うかな。
 今回は夢(花)の世界と現実の世界を股にかけた物語。現実逃避して夢の世界の住人になるって、なんかすごく現代の若者事情を表しているよね。考えてみれば、『守り人シリーズ』ってもとは児童書なんだよね。なんか、社会問題を諭しているという感じなのかな。
 なんだろう、STORYもさることながら、バルサのタンダに対する想いが読んでいて嬉しくて。なんでぼくが嬉しく思うのか・・・。いささかお門違いの感もあるんだけど、第一弾からこの二人には一緒になってもらいたいと思っている読者が、ぼく意外にもたくさんいると思うんだよね。だから、二人の成り行きがどうなるのかを早く知りたくて・・・。
 第三弾はこれまでよりも優しい風が吹く、やんわりとした物語になっている。ちょっとメローすぎるかなとも思えるんだけど、その後の大きなヤマを登る前の小休止なのかもしれない・・・なんて勝手に思っているのでした。


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「クワイエットルームにようこそ」を観る(08.1.18)

 松尾スズキ好きとしては外せない映画だったんだけど、封切り時に観れなかったのよ。すごく後悔していたんだけど。それが名画座(蠍座)で800円で観ることができる。なんという幸せ。
 それよりなにより、「内田有紀、ここまでできる娘だったの?」って驚いちゃった。それは単にゲロカス顔につけてるとかって見た目の大胆さだけじゃなく、眼の表情というか眼の演技がとても巧い。常々かわいいとは思っていたけど、女優としてはあまり魅かれていなかったので、すごく惚れ直したって感じで。
 そんな内田有紀演じるフリーのライターが、精神科病棟に入ってから退院するまでの14日の物語。「私はなぜここにいるの?」というミステリアスな部分を縦軸に、病棟にいる様々な患者や看護師のエピソードを横軸に、14日の闘病(?)生活が描かれている。
 なにが普通でなにが異常なのかなんて、解らないものなんだよね。病棟の中の人々は確かに心に傷を持っているけれど、それは一般社会にいる人間の誰もが持ち合せているもので、それが故に紙一重なんだろうから。
 松尾スズキの持つブラックな作風を一般向けにソフトにした作品。だから時折感じる後味の悪さを感じずに済むことができる。そういう意味では松尾スズキの入門編ってところかな。すごく笑えて、ちょっぴり泣けて。ぼくなんか鉄ちゃんの優しさに打たれっぱなしだよ。
 『クワイエットルームにようこそ』は『松尾スズキワールドにようこそ』なのです。


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有川浩「塩の街」を読む(08.1.9)

 くや探メンバーで読書仲間のSAYUKIに「ぜひ読んで」と薦められた『塩の街』。これまでのぼくの読書ルールを破り、四六判ハードカバー424頁を主に通勤電車の中で読みきった。感想を書く前に、一言。重かった。
 全世界で人間が塩化する。東京は塩の柱となったかつての人たちが乱立し、国家は機能を失ってしまう。無法地帯と化した街で暮らす18歳の真奈と28歳の秋庭。二人の前を通り過ぎていく人々。有川浩の”自衛隊三部作”陸編は、絶望に満たされた街の片隅のヒューマンドラマと言いましょうか。
 このエッセンス、昨年NTV系列で放映された『セクシーボイスアンドロボ』に通じるものがあって、ぼくの心にスマッシュヒットなんだよね。海を求めてさまよう青年、突如現れた粗野な男。塩に侵されていく街で、通り過ぎる人々の、決して塩に侵されることのない想いが語られていく。もう、ウルきゅんものです。
 ところが、一人の男の登場で物語は大きく動き出す。なぜ塩に侵されていくのか。塩の侵略を防ぐ方法はないのか。この急速で大きな流れに巻き込まれていく真奈と秋庭。世界の終わりを意識したとき、見えるものはなんだろうか。
 物語が急展開していささか面を食らったけど、根底に流れるヒューマンドラマに変ることはなく、安心して読むことができた。その後のエピソードでもそれに変ることはなく、読み手としては大満足。
 世界の終わりが近づいたとしても、人は人と関わり、愛し合い、憎しみ合い、様々な感情を抱きながら生きていく・・・死んでいく・・・。心の動きはいついかなる場所や状況でも止まることはないだろう。当たり前のことだけど、当たり前を再認識することができるハートウォーミングな作品です。
 よかった。


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「ミッドナイトイーグル」を観る(08.1.7)

 ひっさし振りの映画鑑賞。この間も何作かは自宅でDVD鑑賞したんだけど、映画はやっぱり映画館のどでかいスクリーンと音響で観るのが一番だよね。
 ってことで、待ちに待った2008年のとっぱじめに選んだ映画は『ミッドナイトイーグル』。北アルプスを舞台に繰り広げられる、山岳軍事サスペンス。公開からひと月以上経ち、前評判の割りにパッとしない映画だけど(失礼)、なんか気になってたのね。
 気力をなくした戦争カメラマンが冬山で遭遇した謎の光。それが国家を揺るがす一大事の始まりだった。その光を追うカメラマンと新聞記者。カメラマンと確執を持つ雑誌記者の義妹。北アルプスに投入された自衛隊の二個小隊。不測の事態に大きく揺れる内閣危機管理室。それぞれの動きが徐々にひとつの輪となって、驚愕の事実が見えてくる。
 すごくベタな物語で、ツッコミどころも満載なんだけど、スケールの大きさがそれを許してしまう。極限の状態で見せる登場人物たちの表情。立場の違いこそあれ、その信念に従って行動する姿は迫力がある。結局のところ戦争青春モノの系譜(潔し)を辿るんだけど、不覚にも涙腺が緩みそうになってしまった。
 大沢たかお、玉木宏、竹内結子が何かとクローズアップされているけど、吉田栄作や大森南朋がいい味出している。それより誰より内閣総理大臣を演じた藤竜也の圧倒的な存在感とその演技は、舞台となる北アルプスを凌ぐかのようなスケールだった。あの不良中年が総理大臣に・・・うるうる。
 最後に、どうしても書きたいベタなこと。
 その1、ミッドナイト川柳「雪原に、赤ジャケットは敵の的」。
 その2、起爆装置解除はやっぱり「赤い線?青い線?」がいいなぁ。


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